オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明』

黄飛鴻(Once Upon a Time in China), 134min

監督:ツイ・ハーク 出演:ジェット・リー、ロザムンド・クワン

★★

概要

清朝末期の武術の達人がチンピラと戦う話。

短評

全六作に及ぶシリーズの一作目。(特に終盤の)アクションシーンには間違いなく目を見張るものがあるものの、『ドラゴン 怒りの鉄拳』のようなシンプルな話をダラダラとしている感じがして、期待していたよりは楽しめなかった印象である。(原題にはないが)タイトルに「ワンス・アポン・ア・タイム」とあるだけあって、“一つの時代を切り取る”という要素がありはするものの、あくまで“カンフーありき”なので、“時代性”というよりも“いつもの話”だった。初めからカンフーだけに期待していれば問題ないと思うが、少々ミスマッチな感じがしなくもない。

あらすじ

清朝末期の中国。黒旗軍の師範ウォン・フェイフォン(ジェット・リー)は、ベトナムに送り込まれるラウから民兵の組織化を託された。彼はソーやガイ、フェンなどの弟子と共に道場を営んでいたが、地元のチンピラ沙河や英米の横暴、更には「平和」の名の下に彼らの行動を擁護するマン提督らに苦しめられいた。そんな中、アメリカの人売りと手を組んだ沙河にイー叔母(ロザムンド・クワン)が連れ去られてしまい、ウォンは敵の拠点へと乗り込む。

感想

映画の冒頭で“(獅子舞的な)龍の舞”をしている。『ヤングマスター』でもジャッキーが見事な動きを披露していたが、本作のジェット・リーはその上をいく。なんと船上に張り巡らされたロープの上で舞うのである。なんという体幹、なんというバランス感覚。本作にも明らかにワイヤーを使用しているシーンはあるのだが、武侠映画のようなあからさまなものは少なく、純粋にジェット・リーの身体能力の高さを楽しむことができる。

冒頭から「これは凄い」と感心させられたものの、その後は少々停滞気味。欧米列強へのヘイトを貯めつつ、沙河との対立を深めていくのだが、ウォンが“メリー・ポピンズ”のように傘を使って着地を決める場面以外にはこれといった見どころはなかったように思う。ところどころにアクションを交えつつ、最終決戦に向けて舞台を整えている感があった。なお、本作がシリーズの中では最もアクションシーンが多いのだとか。

そして、訪れる最終決戦。ここから先のアクションは凄いのだが、展開には少々ガッカリした。“達人同士の一騎打ち”を演出するためのなのか、ウォンは英米に立ち向かわず、沙河に囲われた鉄銅拳のイムと拳を交えるのである。沙河がアメリカの人売り(騙し方が技能実習生を想起させる。いつの時代も同じ問題が)と手を組んでいるという事情があったり、イムが時代の波に飲まれた哀しい武道家といった背景がありはするものの、最後に“内輪揉め”かと。

その残念さがありはしたものの、敵船内でのカンフーバトルは見事の一言であり、セットの使い方も上手かった。“ノド自慢”のイムを演じるヤム・サイクンとのバトルは、スピーディーでキレのある動きが華麗で、見ていて惚れ惚れするような美しさがある。また、組み合わさった梯子の上で“バランスバトル”を繰り広げてみたりと、緩急にも富んでいた。ユン・ピョウ演じるフーがイムから逃げるシーンでは、茶葉の入った袋をトランポリンのように利用してピョンピョンと飛び跳ねるのだが、このシーンの流れるようなカメラワークが素敵だった。最後の“銃弾”の演出は笑った。

本作のヒロインであるイー叔母。「叔母」と言えば、“両親の妹”を指す言葉だが、それにしては若い。ウォンと同世代に見える。二人の関係が分かりづらかったのだが、どうやらイー叔母は叔母ではなく、“大叔父の娘(=従叔母)”であるらしい。慰安婦としてアメリカに売り飛ばされそうになった彼女を沙河のボスが“味見”しようとし、頭に一撃を食らう。彼は頭から流血しても行為を続けようとしていたが、よく勃つものである。死への危機感が種の保存本能を働かせるのか。疲れマラのようなものなのか。