オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『隣の影』

Undir trénu(Under the Tree)、88分

監督:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン 出演:ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン、エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル

★★★

概要

恐怖のご近所トラブル。

短評

笑っちゃいけないけど笑ってしまうブラック・コメディ感がたまらない北欧スリラー。実際にありえそうだと考えれば怖いし、最後は血みどろの争いにまで発展してしまうような話なのに、「こいつら、バカなことやってるな~」という滑稽さが常につきまとっていた。事態が悪い方へと転がる程に、観ているこちらは思わず“ニヤニヤ”してしまう。登場人物も皆、程よく阿呆で、程よくイカれていた。北欧映画は“微妙に嫌なところ”を突くのが上手い。

あらすじ

元恋人ラケルDóra Jóhannsdóttir)とのハメ撮りビデオ鑑賞が妻アグネス(ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル)にバレてしまい、家を追い出されたアトリ。とりあえず実家に身を寄せるものの、実家は実家でご近所トラブルを抱えていた。庭の木のせいで隣家のポーチに影が差すと苦情を受けており、剪定するように頼まれていたが、母インガはこれを受け入れようとしない。やがて、両家は徐々に感情的になり、対立が深刻化していく。

感想

映画で“対立”というものが描かれる時、大抵の場合、観客は主人公側に肩入れするものだと思う。しかし、本作の場合は母インガの頭が明らかにイカれている。長男の自殺(遺体が見つからないので失踪扱い)を受けて、彼女は精神を病んでおり、隣人に対してもやたらと攻撃的である。実は父が業者に剪定を依頼しており、それで一件落着のはずだったのだが、作業前に彼女が隣家の妻エイビョルグとやりあって、“引くに引けない状況”を生み出してしまっている。

両親がご近所トラブルをやっている一方で、離婚トラブルに巻き込まれることとなったアトリ。頭のおかしな母親とは異なり、こちらは一応同情の余地がある。ハメ撮りは妻と知り合う前のもので、彼の主張の通りに浮気ではない。追い出された彼のとる行動は常軌を逸しているようにも見えるが、夫の話を全く聞くことなく追い出し、娘を取り上げようとする妻の方もかなり一方的であるように感じられる。ところで、この場合、妻の感情が害されたことは理解できるものの、夫に法律上の落ち度はないはず。裁判の結果が出る前に妻が一方的に“親権者”として振る舞うことは合法なのだろうか。

この二つのトラブルを重ねてみると、インガとアグネスの両方に“精神的なショック”が影響していることが分かる。そして、両者共に“気持ちは分かる”のだが、「それをやっちゃダメでしょ」というところが多分にある(前者の方がより強いことは言うまでもない)。その結果、彼女たちの夫がバカなことをするが、そこには“振り回されている”という要素がある。そもそも“浮気じゃないハメ撮り”が原因で離婚なんて状況事態がバカバカしいではないか。だからこそ切迫した状況が滑稽に映るのだった。

“木の影”を発端にエスカレートしていくご近所トラブル(「影」は分かりやすい隠喩だろう)。小さな嫌がらせが大きなものへと発展していく過程の他に、その心理的な背景にも説得力があった。インガの精神状態については説明不要だが、隣人エイビョルグの方の設定もなかなか上手い。彼女は“妊活中の後妻”であり、隣からは「若い女」と呼ばれているが、出産に適している程には若くない。その不安を埋めるかのように運動に精を出しており、日光浴も“若作り”の一環なのである。だからこそ“引くに引けない”。これもまたなんとも滑稽な話ではないか。なお、イカレ女のインガは“隣の犬を剥製にする”という狂気に走るのだが、これを受けて押しかけたコンラウズの捨て台詞が「人工授精してきた帰りなのに!」である。いや、分かるけども。笑ってしまう。

問題のハメ撮り映像。“接合部”の腰を横からアングルで捉えたという全く使いものにならないゴミ映像である。撮るならちゃんと撮れ。これでは見返す価値もない(そんなビデオのせいで離婚というのがまた滑稽)。ここでは落胆させられたが、その後、別のビデオ鑑賞シーンではちゃんとおっぱいが映っていたので満足した。なお、アトリはラップトップでビデオを見ていたが、慌てて閉じると接続していたモニターの方で再生されるという最高のギャグが冒頭にある。

隣の影(字幕版)

隣の影(字幕版)

  • メディア: Prime Video