オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ゴーン・ガール』

Gone Girl, 148min

監督:デヴィッド・フィンチャー 出演:ベン・アフレックロザムンド・パイク

★★★★

概要

妻が失踪する話。

短評

本作を映画館で初めて観た時には、その意外な展開に大いに驚かされ、エイミーという女の本性に「ひぇええええ!!!」と恐れおののいたものだが、展開を知った上で改めて観てみると笑えるところも多い一作である。今となっては(初めから近づいてすらいない)結婚の二文字を三十郎氏から遠ざけ、「独身でよかった」と思わせてくれる精神安定剤的な一作と化している。ロザムンド・パイクの演技はインパクトが抜群だが、ベン・アフレックの“ボンクラぶり”もいい味を出していた。

あらすじ

5度目の結婚記念日に姿を消した妻エイミー(ロザムンド・パイク)。夫ニック(ベン・アフレック)は義両親らと共に捜索を呼びかけるも一向に見つかることはなく、逆に彼が妻を殺したのではないかという疑念が深まっていく。しかし、事件の裏にはエイミーによる綿密な計画が存在したのだった。

感想

何者かと争った形跡を残して妻が消えたというのに、どこか余裕のあるニック。“チキン・フリートパイ女”(キャスリーン・ローズ・パーキンス)との自撮りを筆頭に、思わず“ファンサービス”してしまう姿が滑稽である。この浮ついた姿を見た者たちは「彼は妻のことを心配していないのではないか」と疑うわけだが、実はこのボンクラなダメ男こそが“素のニック”であると考えられる。それ以降の彼が表に出る際には常に何者かを“演じて”おり、この“演技”という要素こそが本作を貫くキーワードであるように思われる。

パーティーでエイミーに出会ったニックは彼女の気を引くために“いい男”を演じ、それに応えるべくエイミーも“いい女”を演じる。そうして惹かれ合った二人は結婚するが、“舞台”であったニューヨークを離れたことや失業が影響し、徐々に“素”を露呈しはじめる。その結果として今回の失踪騒ぎが持ち上がるわけだが、ニックが再び“演技”をすることでエイミーの気持ちを(望まずして)取り戻してしまうのである。かくして、映画冒頭の問い──「何を考えてる?」「どう感じてる?」──へと観客は立ち返ることになる。そんなものは分からないし、知りたくもない。ただ“自分にとって都合のいいパートナー”を演じていてくれさえすればいいのである。夫婦の間に限らず円満な人間関係は、程度の差こそあれ、全て演技の上に成り立っているのだ。

その完璧な復讐計画によってニックを(そして三十郎氏を)恐怖させたエイミーだったが、よくよく見れば、意外にも杜撰である。コテージで知り合ったグレタ(ローラ・カーク)やジェフの如き“底辺”は、18世紀の交響曲プルーストを知る彼女のそれまでの人生では目に入らなかった、“想定外”の存在だったに違いない。その演技によって全米を騙したエイミーではあったが、実はその対象は(テレビの語るストーリーを額面通りに信じ込むような層に)限定されており、証言にも矛盾があったりする。自宅に戻ってきた時なんて完全に猿芝居である。「よくここまでやるもんだ」という感心とも呆然ともつかぬ感想を抱かせる徹底した、そして(夫がテレビでそうだと批判されていた)ソシオパスな行動を見せる一方で、意外に抜けたところもある。このギャップが笑いを誘うのである(もちろん計画自体もやり過ぎで笑える。弁護士ボルトの反応がそれを象徴している)。彼女を“こうした”のがボンクラ夫のニックであることを考慮すれば、ある意味では当然という気もする。

まだ緊迫しているはずの段階で登場し、ニックのダメ夫ぶりを教えてくれる“おっぱい娘”のアンディ(エミリー・ラタコウスキー)。エイミーとの生活に必要となる演技にはどんな男であれ、いずれは疲れ果ててしまうだろうが、そうでなくとも彼女のような美人女子大生の誘惑を退けられる男はいない。写真に収まる際によく考えずに笑顔を見せてしまう──「いい人でいなきゃ」と振る舞うニックの、“凡人ぶり”を象徴する不倫だった。そもそも凡人があんな美女と付き合えるのかという問題はあるが、男も“相手に気に入られようとする時”だけは演技できるのだ(三十郎氏は苦手だが)。したがって、再び“気に入ってもらった後”となる物語の先の人生にニックは耐えられないだろう。

“演技すること”を“受け入れた”エイミーと“強いられる”ニック。映画を観終えた時、この男と女を象徴するかのような状況に対して暗澹たる気持ちになるが、本当に気の毒なのはエイミーの元カレのコリングスである。彼も束縛的でストーカー気質な気味の悪い男ではあったが、利用するだけ利用された上、なんとも悲しい“腹上死”を遂げることになるなんて。これも分かって観ていれば笑いの要素である。

ゴーン・ガール (字幕版)

ゴーン・ガール (字幕版)

  • 発売日: 2015/03/06
  • メディア: Prime Video