オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『わらの犬』

Straw Dog, 117min

監督:サム・ペキンパー 出演:ダスティン・ホフマンスーザン・ジョージ

★★★★

概要

田舎は怖い。

短評

1971年のオリジナル版。ペキンパーのドキュメンタリー映画を観て以来、「これは是非とももう一度観ておかねば」と思っていたのだが、嬉しいことにGyao!で配信されていた。気になっていた“寝取られシーン”については、記憶していた以上に夫がダメ男で、夫への不満と快楽の狭間という三十郎氏好みのシチュエーションを楽しめた他、このジャンルに潜む複雑に入り混じった感情を再確認することとなった。また、“暴力を以て暴力を制する”タイプの作品ではあるのだが、それが“復讐”ではなく“対抗”の手段として描かれている点が興味深かった。

あらすじ

妻エイミー(スーザン・ジョージ)の故郷であるイギリスの田舎町へと引っ越してきたアメリカ人数学者のデイヴィッド(ダスティン・ホフマン)。しかし、村の男たちからの好奇の目に晒され、嘲笑を浴びる日々が続く。エイミーは不満を漏らすも、気弱なデイヴィッドは対応しようとせず、彼が村の男たちに連れられて猟へと出掛けいている間に事件が起こる。

感想

その事件こそが件の“寝取られ”である。エイミーは以前、村人チャーリーと関係を持っていたらしく、チャーリーは再会時から「俺が欲しかったんだろ?」と迫っている。これをかわすエイミーだったが、夫の不在時に押しかけて来た彼にレイプされてしまう。状況的には明らかにレイプであるものの、エイミーは「ノー!ノー!」と叫んでいたはずが、やがて「来て……抱いて……」とチャーリーを受け容れていくという快楽堕ちが待っている。単純なノーからイエスへの変化ではなく、繊細微妙な心理的攻防の末に、遂に女が男の首に手を回す──屈した瞬間に三十郎氏の胸の高鳴りは最高潮に達するのである。おっぱいの美しさでは『ヒッチハイク』のコリンヌ・クレリーに軍配が上がるものの、実に素晴らしいシーンだった。この手の描写の魅力は否定し難いが、「ノーはノー」の精神はお忘れなきよう。

チャーリーが服を脱ぐ映像とデイヴィッドのそれを交互に挿入し、逞しいと肉体と貧弱なそれが対比されている。暴力的に迫られていることも含めて、“強いオス”への潜在的な欲求が窺える。また、デイヴィッドがセックスの前に目覚まし時計をセットして雰囲気を台無しにするようなダメ男であるエピソードもふんだんに描かれており、「これは寝取られても仕方がないなあ」と思うのであった。

しかし、今回気付いたのは、単に快楽堕ちしたのではなく、これがある種の防衛機制なのではないかという点。行為はチャーリーの「これ以上殴らせるな」という言葉から始まっており、それ以上の暴力を避けるための手段として彼を受け容れたのではないだろうか。自ら受け容れることによって、レイプという現実から逃避しているのではなかろうか。その後、暴漢たちの襲撃を受け、エイミーが「もういや!チャーリーについていく!」と言い出す場面があるのだが、ここでデイヴィッドがビンタを一発かますと彼女は大人しく言うことを聞くのである。これは暴力が発生した瞬間に彼女が反射的に相手に従うようになったことの証左であるように思われる。

“暴力”の描き方として本作が興味深いのは、「妻がレイプされた!復讐してやる!」という展開にならないことである。デイヴィッドは妻がレイプされたことを知らぬまま(トラウマがフラッシュバックして怯える彼女の異常にもほとんど気付きもしない)、不可避的に暴力に飲み込まれていくことになる。ヘンリーという知的障害者の男を匿ったことで家を襲撃され、頼りにしていたスコット少佐が射殺され、デイヴィッドの顔色が変わる。「暴力、ダメ。ゼッタイ」だった彼が、自らの暴力で立ち向かう以外に術がないことを悟るのである。じっくりと見せてきた田舎特有の嫌な雰囲気や妻のレイプ被害。これらに対する報復手段としてデイヴィッドが暴力を“選択”するのではなく、自らの身を守るための最終手段として“選ばざるを得ない”状況に立たされる。

妻エイミーは心を守るために暴力を受け容れ、夫デイヴィッドは体を守るために暴力に手にする。デイヴィッドが見せた暴力性は、好むと好まざるとにかかわらず、全ての人間の奥底にそれが秘められていることを示唆しているように思う。平和主義だの何だの言ってみても、それは我々の本能なのだ。

エイミーに集まる好奇の目。オープニングシーンでは白いニットをビンビンに立った乳首で浮き上がらせ、ミニスカからパンチラし、窓の外に作業員がいるにもかかわらずカーテンを閉めずに風呂に入っておっぱいを見せびらかす。だからと言ってレイプが許されるわけではないが、彼女のガードは甘いどころの騒ぎではない。傍観者としては「ごちそうさま」という気分。

卑劣なレイプ漢のチャーリーが、意外に純愛野郎っぽいのは笑いどころか。

わらの犬  HDリマスター版 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2015/12/02
  • メディア: Blu-ray