オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『パラダイス:希望』

Paradies: Hoffnung(Pradise: Hope), 91min

監督:ウルリヒ・ザイドル 出演:メラニー・レンツ、ジョセフ・ロレンツ

★★★

概要

肥満少女の恋。

短評

ウルリヒ・ザイドルのパラダイス三部作の三作目。これまでの二作品との決定的な違いは、主人公メラニーが“求められる”という点である。母と伯母の黒人男娼やキリストへの思いと同じく、彼女の年上男性への思いが実を結ぶことはないわけだが、彼女には確かに“需要”がある。きっとそれは彼女の若さ故なのだろう。どうか母や伯母のような末路を辿らないでほしいものである。相変わらず意地悪な映画だったが、他作品よりも“構図”ではなく“画”で笑わせる、気不味くない場面が際立っていたように思う。それはまだメラニーに希望が残されているからなのかもしれない。

あらすじ

テレサケニア(買春)旅行に出かけている間、娘のメラニーメラニー・レンツ)は肥満改善のためにダイエット合宿へと送り込まれる。同じく肥満の少年少女たちと共に運動し、食育ビデオを見て、休憩時間にはガールズトークを楽しむ、身長165cm、体重81kg(自称75kg)、スリーサイズ107-89-109のメラニーだったが、保健室の担当医師に恋をする。

感想

メラニーが父親ほども年の離れた男性に恋をする。これ自体は少女時代にありがちな一場面だろう。ここで問題となるのは、その年上男性たる医師の方も満更でもないということである。ロリコンである。その上、デブ専である。彼女を求めるのは医師だけではなく、肥満仲間と合宿所を抜け出してクラブで踊っていると、若い男(デブ専)からも声を掛けられる。合宿仲間は13才で初体験を終えたと言うし、若い女性というのは、それだけで価値のある存在なのだ。希望とは若さだ。つまりそれを失えば……。

デブ専男に酔い潰されたメラニーを迎えにきた医師。爆睡する彼女を森へと連れ込み、地面に横たえ、クンクンした後に添い寝する。なんと気持ち悪い!彼による“診察”も相当に危うい場面ではあったと思うが(彼の方が脱いて診察“させる”時の気持ち悪さと言ったら!)、「本当に手を出しちゃマズい」という一進一退の攻防をしていたのに、メラニーの睡眠につけ込んで本性を全開にするのである。その後、賢者モードになったのか「もう私のところに来るな」と告げる医師。メラニーには苦い思い出となっただろうが、これは彼女が“求められた”証でもある。

メラニーが合宿仲間たちと“王様ゲーム”(ビール瓶を回転させての指名方式)をしているところにやって来て激怒する医師。これも後から考えてみると、職業倫理的な理由ではなく、彼女が“他の男”たちと仲良くしているのが気に食わなかったことになるのだろうか。運動の方はダメダメながら、キッチンに“夜襲”を仕掛けたりと元気な肥満児たちの姿は可笑しかったが、あれでは痩せるものも痩せられまい。なお、この夜襲がバレた際の“うつ伏せの刑”が意味不明過ぎて最高だった。

それにしても、デブ、デブ、デブと巨大でだらしない肉塊の居並ぶ様は壮観だった。ただ並んで立っているだけで覇気の無さが尋常ではなく、運動する姿はまるで様にならない。同時に同じ動きを始めたはずが、体力がなさすぎてどんどん動きがズレていく。画面にデブがいっぱいいるだけで笑ってしまう。その間抜けな姿が、ヨーロッパ映画らしくオシャレにバッチリ決まった画面構成の中に収められているというギャップは実にシュールであり、なんだか不思議な感覚だった。医師がメラニーをクンクンする気色悪い場面も、(関係を知らずに)美男美女が同じ事をやっていれば、幻想的でロマンティックな瞬間となっていたに違いない。

テレサと夫には死別の線もあるのではないかと思っていたが、メラニーが父に電話をする場面があり、離婚であると分かった。なお、自身を合宿に送り込んだ母には「合宿所は最高よ」と、父には「最悪。ママはどうしてこんなところに……」と、対称的な感想を伝えていた。このあたりの関係性にも彼女が年上男性に恋した理由が見え隠れしているように思う。ちなみに、母テレサは自分の誕生日に娘が連絡をくれないと嘆いていたが、これは合宿所では決められた時間以外に携帯を使えないのが原因だった。反抗期の娘が母を蔑ろにしていたわけではなかったのだ。メラニーの内面は(まだ)醜くないのだ。

合宿で歌われている「幸せなら脂肪を叩こう!」という歌(「手を叩こう」と同じメロディ)がとても気に入ったのだが、EDにも使われていて思わず吹き出した。

パラダイス:希望 (字幕版)

パラダイス:希望 (字幕版)

  • 発売日: 2017/04/10
  • メディア: Prime Video