オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『BEYOND BLOOD』

Beyond Blood, 91min

監督:小林真里 出演:アレクサンドル・アジャパスカル・ロジェ

★★

概要

2000年代のフランス製ホラー映画について。

短評

2003年から2008年にかけて巻き起こったニュー・ウェイヴ・オブ・フレンチホラーについてのドキュメンタリー映画アレクサンドル・アジャパスカル・ロジェといった界隈で名の通った監督たちが出演している。その起源や魅力、本国での失敗について語られている内容は興味深く、未見の作品を観てみようという気になった。その一方で、関係者の証言を羅列しただけの感は否めず、本作が“一つの作品”として、「ゼロ年代のフレンチホラーがアツい!」という以外に何を主張したいのかが見えてこない点は物足りなかった。

あらすじ

2003年に『ハイテンション』が公開されて以降、『屋敷女』『フロンティア』『マーターズ』といったバイオレントなフレンチホラー映画が同時多発的に制作されていく。その潮流は“ニュー・ウェイヴ・オブ・フレンチホラー”と呼ばれ、各国で称賛を浴びることになる。その一方で、本国フランスでは十分な評価を受けることはなく、ムーブメントは立ち消えとなってしまう。

感想

映画創世記にはジョルジュ・メリエスのような監督が“エンタメ”を撮っていたフランス映画界だが、ヌーヴェル・ヴァーグの登場により“シリアス化”が進み、今日の“小難しいフランス映画”というイメージという確定される。したがって、ジャンル映画であるホラー映画もあまり制作されてこなかったが、『ハイテンション』の成功により経済面での扉が開かれ、後続作品が生まれたとのことである。

その背景に9.11に端を発する“世界の不安定化”があるという主張は説得力があったのだが(ベトナム戦争が70~80年代のアメリカ製ホラー映画を生み出したことと重ねられている)、「どうしてフランスなのか」という疑問に対する掘り下げが必要だったかと思う。スペインでも同時期にホラー映画のブームが起きているが、“そうでない国”との違いを語らなければ“理由”として成立しない。

フランス国民は“芸術映画”の方がお好きらしく、フレンチホラーは本国では受けなかったそうである。ただし、“種を蒔く”ことには成功したようで、2010年代の『RAW 少女のめざめ』や『リベンジ』へと繋がったのだとか。アメリカ製ホラー映画の女性主人公が“ラッキーガール”として生き残るのに対し、ゼロ年代フレンチホラーは『エイリアン』のように“ラスト・ガール・スタンディング”となるのが特徴である。そこからの流れには必然性があるように思えたのだが、「安いトーチャーポルノとは違うんだよ!」とフランス産を誇る姿勢については「芸術映画ばかりでジャンル映画が軽視されている」という“愚痴”との矛盾を感じたし、そこまで褒める程でもない映画も沢山あることを三十郎氏は知っている。

本国での不遇は、『SF映画術』で語られていたかつてのSF映画の扱いに非常に近いように感じられた。SF映画は『スター・ウォーズ』が転機となってメジャーなジャンルへと上り詰めたわけだが、『ハイテンション』はそうなれなかったわけか。ただし、彼らは「アメリカ映画の無意味な暴力とは違うんだよ」と自らの不遇の原因でもある“芸術性”を誇りにしているわけで、その点での難しさを抱えているような気もする。ニュー・ウェイヴ・オブ・フレンチホラーの正当な評価は、後世の作品にどのような影響を与えたのかが判明するまで待たれることになるのだろう。

本作の監督が日本人であるためなのか、日本の映画関係者もインタビューに応じている。フレンチホラーが日本で熱狂的な人気を得たわけでもなく、Jホラーとの関連が語られるわけでもなく、何のために出てきたのか分からなかった。映画の出演者に「監督はこんなに素晴らしい人よ!」と褒めされる宣伝のようなシーンと併せて蛇足である。そんなものに尺を割くくらいならば、もっと掘り下げるべき点はいくらでもあるし、そうでなくとも作品の魅力の紹介により具体性を持たせた方がよい。

BEYOND BLOOD (字幕版)

BEYOND BLOOD (字幕版)

  • 発売日: 2020/02/05
  • メディア: Prime Video