オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ショック集団』

Shock Corridor, 101min

監督:サミュエル・フラー 出演:ピーター・ブレック、コンスタンス・タワーズ

★★★

概要

精神病院潜入調査。

短評

カッコーの巣の上で』に10年以上先駆け、1963年に公開された“朱に交われば赤くなる”系の映画(と言っても経緯はだいぶ異なるが)。本作が“精神病院もの”というジャンルを切り拓いたのかとも思ったが、少なくとも1946年には『恐怖の精神病院(Beldam)』というホラー映画が公開されており、特にそういうわけでもないらしい。果たして、このジャンルの起源はどの作品なのだろう。それはともかく、“見世物”として消費されがちな精神病患者に“社会的背景”を与えることで、露悪趣味とは異なる狂気の世界が表現されていた。

あらすじ

1年以上の入念な準備を経て、患者として精神病院に潜り込むことを決めた新聞記者のジョニー。恋人キャシー(コンスタンス・タワーズ)の強い反対を押し切ってまで挑む潜入調査の目的は、院内で発生した殺人事件の犯人を見つけ出すこと。ジョニーは事件の目撃者とされる三人に接触するものの、次第に自身も精神を病んでいく。

感想

一人目の目撃者は、自分を南北戦争の英雄だと思いこんでいるスチュアート。朝鮮戦争での過酷な体験が原因となって発症している。二人目は、自分をKKKの一員だと思いこんでいる黒人学生トレント。大学での迫害体験が原因で発症している。そして三人目は、ノーベル賞受賞経験もある物理学者だが、現在は幼児退行しているボーデン。核兵器という自らが生み出した災厄の重みに耐え切れずの発症である。いずれもアメリカの“暗部”が原因で発症しており、彼らを通じた社会批判の意図が窺える。アメリカという国が、多いなる狂気の上に成り立っているのだと。

三人の目撃者の中で最もインパクトがあったのは、自称KKKの黒人トレント。黒人が「民主主義と差別は別物。ニガーは出ていけ」と主張し、「あそこに黒人がいるぞ!」と黒人を追いかけ回すわけだが、その姿は滑稽さは、“病院の外にいる”本物のKKK団員たちの異常性を映し出す鏡として機能を果たしている。ボーデンの幼児退行は、核を生み出す前に戻ろうとしたものなのか。それとも、その後先考えない幼児性こそが核を生み出したという批判が込められているのか。

目撃者以外の患者たちについて。深夜に一人オペラを始めるデブのパリアッチ。迷惑極まりないが、彼については「笑える」という印象が強かった。音楽演出過多の妄想バージョンからBGMなしの現実への唐突な転換は特に良かった。もっとも、(迷惑ではあるが)直接的な害を為すわけではない彼のペースに巻き込まれていると、気付かぬ内に“普通”を忘れてしまいもするだろう。ジョニーが性依存症の女性患者たちに襲われる場面がある。この文字情報だけだと少し羨ましいような気もするが、実際の光景はゾンビに襲われているようであり、ラッキースケベとは程遠かった。

医者を騙して精神病院に潜入したはずが、本当に精神を病んでいくジョニー。果たして、その原因は何だったのだろう。最も大きな契機としては“電気ショック療法”があるものの、彼は入院時からキャシーの夢に囚われており、“素質”があったようにも思われる。初めは目的があって自分を異常者だと“思い込ませていた”わけだが、本物の異常者たちに囲まれ、その思い込みが現実となる。これは目撃者たちの“現実逃避”と目的は異なれど、経緯は同じではないか。果たして、“正常”と“異常”とを隔てるものは何なのか。正気を取り戻した状態のトレンドが「大学に残っていたらもっとイカれてた」と語る世界は正常なのか。ジョニーが自分の考えていることを言葉として発せなくなる演出が怖かった。

ショック集団(字幕版)

ショック集団(字幕版)

  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Prime Video