オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『追想』

On Chesil Beach, 109min

監督:ドミニク・クック 出演:シアーシャ・ローナンビリー・ハウル

★★★

概要

チェジル・ビーチ離婚。

短評

シアーシャ・ローナンがたったの6時間で離婚(正確には「婚姻不成立」)する映画。最速離婚タイムアタックである。シリアス一辺倒の文芸ものかのような雰囲気を発しているが、意外にコミカルな場面が多くて楽しめた。現代では「初夜」という概念そのものが死滅しているため、感覚的に掴みづらい部分はあるものの、若者の未熟さ故にボタンの掛け違いが起こるという“悲劇”は、時代を問わない普遍的なものなのではないだろうか。

あらすじ

新婚旅行でチェジル・ビーチへと訪れたフローレンス(シアーシャ・ローナン)とエドワードの二人。夕食を終え、二人は“夫婦の営み”を始めようとするものの、これがどうにも上手くいかない。核兵器廃絶集会で知り合って惹かれ合い、階級の違いを乗り越えて結婚に至った二人だったが、 彼らの間の“ズレ”が明らかとなる。

感想

二人の出会いから結婚までのアレコレをフラッシュバック方式で挿入していき、階級や性格といった細かなすれ違いが明らかとなっていくわけだが、離婚の決定的な要因を挙げるならば、やはり“若さ”ということになるのだろう。

フローレンスは性的なトラウマからセックスに対して恐怖心を抱いているらしいが、何のかんのとはぐらかしつつも事に及ぼうというその時、エドワードが“暴発”する(ここは大いに笑った)。部屋を飛び出したフローレンスをエドワードが追うも(果たして彼女はこの時ノーパンだったか)、彼女は「私にセックスは無理。あなたは外でしてくるってことでどう?」と提案。エドワードが「なんだそれ!」とキレて離婚と相成る。

観客は彼らの“過去”を見ながら、「これが原因かな?それともあれかな?」と考える。そこには色々と理由になりそうな要素が存在しているものの、どれも本質的な問題ではないように思う。それらは二人にとっても既知だったはずであり、また、他の多くの夫婦が乗り越えていることでもある。彼らが乗り越えられなかったのは、自らの未熟さによる“焦り”なのだろう。フローレンスは「セックスは無理」「だから外でしてこい」と論理が飛躍するし、エドワードは「そんなの受け入れられるはずがない」と、彼女が何故拒むのかを理解しようとしない。互いに協力して問題を解決しようとする態度が見られないのである。

結婚やセックスに対する「かくあるべし」が自らの内にあり、一度それが否定されてしまうと、互いに歩み寄る余裕がない。それは正に若さ故だろう。もしエドワードがフローレンスの「二人で一緒に戻りましょう」という言葉に背を向けなければ、きっと違った未来もありえたはずなのに。でも、仕方がないよね、童貞だもの。

とは言え、フローレンスが楽団の仲間という、より同質性の高い相手と結婚して子をもうけたことを考えれば、別の理由についても考慮するべきなのだろうか。フローレンスは妹から「彼のどこがいいの?」と尋ねられ、「他の人と違うところ」と答えている。それは正に情熱の一形態であり、情熱とは冷めるものである。不安を抱えながらも、自分の愛を疑いたくなくて結婚まで突き進み、そこで初めて問題が表出する。愛の表現が“障害を乗り越える”という点に集中してしまい、それ故に本質的に重要な互いの内面を知ろうとできなかったのではないか。

“とにかくヤリたい”エドワードと、「とりあえず、落ち着いて。話をしましょう」のフローレンス。食卓から立ち上がるなり盛り始めるエドワードに対してフローレンスが「ここではちょっと……」と躊躇ったり、エドワードがフローレンスのファスナーを上手く下ろせなくて焦れる童貞的描写の数々が楽しかった。経験人数を尋ねられて「多くはないよ」とはぐらかすも、具体的な人数と名前を聞かれて「実は初めてです」と白状するエドワード。もし童貞を隠したい御仁が読者にいらっしゃるならば、設定はちゃんと練り上げておくように(バレると思うけど)。また、挿入時には横着して感覚に頼らずに穴を目視するように。

服と下着の色を鮮やかなブルーで揃えたフローレンス。シアーシャ・ローナンの下着姿や、彼女がストッキングを脱ぐ瞬間が拝めて眼福だった。最後は老けメイクでお婆ちゃんになっているフローレンスだが、シアーシャもあんな老け方をするのだろうか。エドワードは挿入前に果ててしまったが、彼女の手でイカせてもらえたのだから、誇ってもいいと思うぞ。

邦題の『追想』は、最後にその意味が分かるものの、他作品と被っている上に原作小説の邦題とも異なるため、強いてこのタイトルにする必要はなかったように思う。

追想(字幕版)

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  • 発売日: 2019/05/10
  • メディア: Prime Video
 
初夜 (新潮クレスト・ブックス)

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