オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『密偵』

밀정(The Age of Shadows), 140min

監督:キム・ジウン 出演:ソン・ガンホ、コン・ユ

★★★

概要

朝鮮総督府で働く現地人がレジスタンスに協力する話。

短評

日本統治時代の朝鮮(「朝鮮」と「韓国」の呼称の使い分けがよく分からないが、当時は「朝鮮」でいいはず)を描いたスパイ・スリラー。「密偵」という邦題が古風で良い。息詰まるスリルあり、流血沙汰あり、胸を熱くするドラマあり、と三拍子揃った一作だった。日本統治時代のソウルや上海の租界を再現したセットの出来もよく、ワーナー・ブラザーズ・コリアの第一回作品というだけあって(撤退によって『魔女2』の製作が一度は白紙化したが、ようやく制作に入ったらしい)、“大作感”が漂っていた。

あらすじ

日本統治時代の朝鮮、京城府(現在のソウル)。朝鮮人でありながら総督府警務局で働くイ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は、独立派レジスタンス“義烈団”の団長チョン・チェサン(イ・ビョンホン)を追うように命じられる。彼は団員キム・ウジン(コン・ユ)と接触し、チョンに近づこうと画策するが、相手も逆にジョンチュルを団に引き入れようとするのだった。

感想

“日本のために同胞を捕らえる朝鮮人”というだけで複雑な立場なのに、義烈団からスカウトを受けて更に複雑な立場に立たされるジョンチュル。樽いっぱいの酒を三人だけで黙々と空ける気不味すぎる飲み会と夜釣り会の末に彼は同胞への協力を決意するのだが、この決め手となったのは、チョン団長の「どちらの歴史に名を刻みたいですか」という言葉だったように思う。この言葉を受けて、「ぼくは日帝!」とは誰も考えられまい。自分がこのような歴史の岐路に立たされる場面は想像できないが、何か“立場”を選択するに当たって大切にしたい考え方である。

ジョンチュルが義烈団側の“密偵”となったことで、人間関係のこじれ方が加速していく。ジョンチュルは自分を疑う同僚にバレないように裏工作するのが大変だし、同時に自分の立ち位置を決めかねている。また、義烈団の中にも裏切り者がいて(炙り出し方が『GOT』でティリオンがサーセイの内通者を探す時みたいだった)、疑心暗鬼が高まっていく。それらの疑念が全て鉄道車両に集結した時の緊張感は白眉である(果たして“おっぱい陽動作戦”は機能したと言えるのか)。それだけの情報戦を繰り広げておいて、ヨン・ゲスン(ハン・ジミン)が捕まる理由が単純なミスによるものだというのだから、なんとも皮肉な話である。

残虐な拷問シーンはあるものの、日本の描き方が意外にも“まとも”だった。ジョンチュルなんて「疑わしきは罰しろ」のノリで処刑されそうなのに正式な裁判を経て釈放されているし、ウジンも殺されずに収監されている。ジョンチュルの方は殺してしまうとオチに繋がらないという作劇上の理由もありそうだが(「日本人にも朝鮮人にもなり切れない」という悲しみで前フリしているのが良い)、もっと悪辣に描いて、“悪役感”を出さなかったのは何故なのだろう。そこまで過剰な演出を加えずとも、観客の“認識”だけで十分に“悪役”として機能させられるのか。

ソン・ガンホの日本語が上手で驚いた。ほとんど字幕要らずだった。彼の“朝鮮人が話す日本語”に感心していると、逆にヒガシ部長(鶴見辰吾)の“日本人が話す日本語”が演技掛かっていて不自然に聞こえてくるという不思議である。ただし、ジョンチュルと敵対する相棒ハシモトは韓国人キャストが演じているため、“日本人が話す日本語”としては違和感がある(IMDbを見ると吹替のようだが)。また、彼が「裏切り者め!」と死に際に叫ぶのが韓国語なのは演出ミスだと思う(日本語なら日本人観客が違和感を覚えるだけで済んだだろう)。

義烈団の団長という“大物”役で出演しているイ・ビョンホン。ハリウッド進出したものの、それ程役に恵まれることはなく、今では“一昔前の韓流スター”といった趣がある(ペ・ヨンジュンは何をしているのだろう)。しかし、本作のような“ちょい役”だと彼の存在感が際立っていて、こういう使い方もあるのかと感心させられた。韓流コンテンツの日本での受容がTVドラマから映画へと主軸を移し、彼やウジン役のコン・ユのような男前よりも、ソン・ガンホこそが最大のスターとなることを、果たして誰が予想しただろう。彼も身長があるので立ち姿が決まるのだが、非イケメンスター主演で大ヒットしたという事実が内容の充実度を示す一端と言えるかと思ったが、準主役がイケメンでバランスをとっているだけか。

密偵(字幕版)

密偵(字幕版)

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