オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『100年予測 世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図』ジョージ・フリードマン

The Next 100 Years: A Forecast for the 21st Century/George Friedman

概要

地政学的に予測する21世紀。

感想

「影のCIA」とも呼ばれる(本当にそう呼ばれているのかは知らない)シンクタンクストラトフォーの創設者ジョージ・フリードマンによる未来予想。確かに納得させられるようなところはあるし、読み物としては面白いものの、その信ぴょう性については疑問符のつく一冊だった。著者は「現在の常識はすぐに通用しなくなる」と大胆に未来予想している一方で、アメリカの繁栄の継続については経路依存性を重視しており、これは矛盾する態度なのではないかと思う。

現在、アメリカが世界で唯一の覇権国家となっているのは、その“海軍力”によるものなのだとか。世界中の海洋の支配は、歴史上どの国もなしえなかったことであり、それがアメリカを特別な国としている。また、北米大陸ユーラシア大陸の各国のように隣国からの侵略を受ける危険性が低く、本土決戦を避けられるというメリットも有している。これらの“現在のアメリカ評”の他、対イスラム戦争の狙いなどについては「なるほど」だった。

その一方で、(本書が出版された2009年には通説だったのだろうが)「中国の成長が今のペースで続くはずがない」といったように(少なくとも2021年時点では)著者が外している予測の多くは、その国の抱えるリスクを過大評価したことによるものである。他方、アメリカの抱えるリスクは過小評価しており、「今、アメリカが圧倒的に強いのだから、21世紀中盤以降の戦争を制するための技術開発もリードできるはず」という楽観を貫いている。その経路依存こそが、著書が「通用しなくなる」とする“常識”である可能性はないのか。

他に、「これは荒唐無稽なSFではない」として宇宙戦争の様子を嬉々として妄想しているものの、既に我々にとってはSF的展開を迎えているであろうサイバー戦争についての言及はない。スノーデンが「日本の原発にはNSAマルウェアが仕込まれているよ」と証言していたように、“極超音速兵器”よりも速い、そしてより強力な兵器が既に存在しているというのに、著者が物理兵器にばかり拘るのは何故なのだろう。総力戦が減少傾向にあるのなら、その完成形はハイテク兵器の機能停止となるのではないか。「コンピュータ文化こそがプラグマティックなアメリカの精神を象徴している」と言うのなら、そのコンピュータがパラダイムシフトを起こす可能性は考慮しなくてもよいのか。

著者の予想によると、21世紀中盤に強国となる可能性があるのは、日本・トルコ・ポーランドの三ヶ国だそうである。日本がアメリカに歯向かって再び戦争を仕掛けるという未来はにわかには信じがたいものの、少子化によって海外に活路を見出すより他になくなるという話は説得力があった。移民の受け入れに対する抵抗が強く、条件の悪い日本に移民が来たがらないとなれば、現地を日本化するしかない。今の国民意識は海外侵略に対して強い拒否反応を示しているように思うが、集団的自衛権に関する政府解釈が変更されたように、来たるべき未来に向け、そうとは意識させないように地ならしが進んでいるのかもしれない。21世紀に入ってから日本におけるハリウッド映画のプレゼンスが低下しているように感じるも、もしやその一貫か(ほとんど陰謀論だが)。

著者は「細部は外れるかもしれないが、大まかなところは正しいはず」と言う。しかし、「21世紀もアメリカが覇権国家であり続けるだろう」なんて誰にでも言えるし、細部を外せば意味がないのではないか。ただし、シンクタンクが「こういう危険性があります」「だからこう対処しましょう」とアメリカ人に恐怖を植え付けることにより、予言の自己成就的に現実が展開する可能性はある。「戦争は必ず起こる。だから備えよ」の言葉が戦争を起こしうる。巨大な軍需産業もそれを利用することだろう。

100年予測

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