オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マローボーン家の掟』

Marrowbone, 110min

監督:セルヒオ・G・サンチェス 出演:ジョージ・マッケイ、アニャ・テイラー=ジョイ

★★

概要

イギリスからアメリカに引っ越してきた四兄弟の話。

短評

怖がらせるつもりをまるで感じられないホラー映画。中盤までの話を引っ張る謎がバレバレな分だけオチには騙されたものの、それも使い古された展開に過ぎず、それ以外のつまらなさを埋め合わせるだけの驚きとはなりえなかった。いくつかの伏線が回収されて、話の辻褄が一応合った。ただそれだけである。愛しのアニャ・テイラー=ジョイは可愛かったが、彼女のキャラクターにもご都合主義を感じる。邦題の「掟」要素は皆無だった。

あらすじ

父から逃れ、母と共にイギリスからアメリカへと渡ったジャック、ビリー、ジェーン(ミア・ゴス)、サムの四兄弟。近所(=遠く)に住むアリー(アニャ・テイラー=ジョイ)とも出会い、穏やかな新生活が始まったかに思われたが、間もなくして母が病死してしまう。四兄弟は「ジャックが21才になるまでは隠れて。四人で暮らして」と母が言い遺した通りに、ジャック以外は屋敷から出ない生活を送る。

感想

母親が死んで埋葬が済むと一発の銃声が響き渡り、話が六ヶ月後へと飛ぶ。この間に何があったのかが一つのミステリーとなっているわけだが、兄弟が何事もなかったかのように暮らしていることを考えれば、銃を持った男を“処理”したと考えるのが妥当だろう。男の正体が父親なのは言うまでもない。天井のシミは彼の体液である。兄弟が頑なに母の死を隠そうとする理由についても少々不思議に感じられたのだが、これも一家離散を防ぐためと捉えて問題ないだろう(Wikipediaには母の遺言が長々と書いてあるものの、字幕も、三十郎氏が聞き取れる範囲の英語も、そこまで具体的な法律の話はしていない)。一応は謎で話を引っ張っているはずなのだが、全く引っ張れていない。

以上の誰でも察することのできる謎を解き明かすために、映画の約半分を費やしている。ここまではアニャ・テイラー=ジョイが可愛いという以外に何の見所もない。どうやら父の殺し方は“屋根裏部屋への幽閉”だったらしく、末っ子サムが「オバケ!」と言い出し、ジェーンがミイラのような手に腕を掴まれ、ビリーが死にかけてホラー映画っぽくなっていくわけだが、言ってしまえば“せいぜいその程度”である。これで怖がれというのは無理がある。「父が本当は生きているのか。それとも悪霊化しているのか」という謎は残るものの、その存在を利用して怖がらせる描写が物足りなければ、どちらだろうが知ったことではない。

それらの怖くとも面白くともない話がミスリードになっているため、オチに気付くことはできなかった。確かに騙されたが、だから何だと言うのか。「観客を騙せば勝ち!」をやっていいのはB級スリラー映画だけだろう。キャストやセットの質を考えれば、それで納得するわけにはいかない。定番のオチで騙したのは調理方法の上手さを褒めるべきかもしれないが、映画が面白かったことにはならない。

アリーに「対象外」と言われてフラれ、ジャックに嫉妬する弁護士のポーター。彼は所属事務所から「共同経営者にしてあげるから株を1割買って」と頼まれ、「強盗殺人犯の父が残した金があるはず」とジャックを脅す。実に情けない非モテ勘違い男である。この昇進話なのだが、「従業員のまま働き続けるのはナシ」「共同経営者ならないならクビ」という条件を提示するような事務所の経営状態が健全なはずはなく、彼はそれを察するべきかと思う。

本作唯一の見所と言ってもよいアニャ・テイラー=ジョイ嬢(どうでもよいが、三十郎氏は彼女のことを「ジョイちゃん」と呼んでいる)。ミア・ゴスを前にしては、彼女もファニーフェイスではなく正統派美人である。三十郎氏は常々、彼女はブロンドよりもブルネットが似合うと思っているため(彼女を知った『スプリット』がそうだった影響が大きいだろう。唯一の例外は『ウィッチ』)、本作の彼女はレトロなファッションも含めて非常に魅力的だった。

ただし、演技の面では大声を出す場面で声が掠れているのが素人みたいだし(好意的に捉えれば、その言葉とは裏腹に恐怖に打ち震えて声が小さくなっている)、キャラクターの面ではジャックに都合が良すぎる。生きづらさを抱える女性の前に必ず現れる“優しい彼くん”の女性版である。そもそも出番が少ないので実力を発揮する機会がなく、それがご都合主義を加速させる。図書館職員の優しいニット巨乳美人とかオタクの妄想かよ(彼女に家族が存在しないのも萌えアニメみたい)。ジャックが彼女に“顎クイ”されているのは羨ましかった。

最後に医者が偉そうに色々と話していたが、本人に会うこともなく薬だけ処方するのはマズいだろう。場合によっては本作最大のホラー要素となりうる。

首を刺されても死なない父親の生命力は凄いが(三人はミイラ化していたので、食べて生き延びたわけではないのか)、それだけの体力があるのなら、あの程度の壁は破壊して脱出できただろう。刑務所から逃げるよりも遥かに楽勝だと思う。脱獄犯がイギリスからアメリカに渡ったのなら、あるはずの知恵をもっと絞れ。

ビリーが「兄さんには恋人がいていいよな!」と嫉妬したのもジャックが妄想していただけだと考えると、気持ち悪くも笑える。

マローボーン家の掟(字幕版)

マローボーン家の掟(字幕版)

  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: Prime Video