オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『The NET 網に囚われた男』

그물(The Net), 112min

監督:キム・ギドク 出演:リュ・スンボム、イ・ウォングン

★★★

概要

北の漁師が南に流される話。

短評

昨年コロナで亡くなったキム・ギドク監督作品。人格・言動にはかなり問題があったとのことで、その業績をどう評価すべきかとう議論があるようだが、残した作品が面白いという事実は否定できない。本作は北の市民の目を通して南の矛盾を暴いている一方で、北が抱える問題については皆が知っての通りである。国境の地理的分断が国民の意識的分断を呼び、力なき一市民に過ぎない主人公は振り回されるのみ。他作品のような狂気は感じられないが、その悲哀はギドクが脚本を務めた『レッド・ファミリー』に通ずるものがあった。

あらすじ

韓国との国境沿いの村で漁師をしているナム・チョル。ある朝、彼はいつものように漁に出るが、モーターが故障して船が韓国側に流されてしまう。捕らえられたナムはスパイ疑惑を受けて厳しい追求を受けたり、南側への“転向”を促されるものの、妻子の待つ北に帰ると頑なに主張し続ける。 

感想

意図せずして流されてしまったナムをそう呼ぶは正確でないのかもしれないが、“脱北者”の韓国内での扱いを見られるという時点で面白い。まず、スパイだと疑われ、過酷な尋問を受ける。ここでの拷問が韓国内でも人権問題として騒がれているらしく、取調官が「あいつは“潜在的スパイ”」と断定する一方で、部長は「証拠がないと厳しい。転向チームに任せよう」と穏便な解決を目指す。ただし、「転向させずに北に帰したら我々の負け」「独裁者の洗脳から哀れな連中を救ってやっている」という言葉からも分かるように、韓国の“上から目線”が際立っている。

頑なに亡命を拒むナムを転向させるため、ソウル市内を見物させることに決める韓国側。男に殴られる逃走娼婦(안지혜)を救ったナムは、彼女の窮状を聞かされ、「こんなに豊かな国でどうしてあんなに苦労してる女がいるのか」との疑問を漏らす。分かりやすく南側──資本主義の矛盾が表現された場面である。上述の脱北者への非道な扱いと併せて、「北よりは南の方が絶対にいいはず」という南側の思い上がりに対して一石を投じている。ちなみに、娼婦が「脱北者は支援金が貰えるんでしょ?一緒に住まない?」と話していて、その制度に対する取調官の反感と併せて興味深かった。

しかし、皆も知っての通り、北朝鮮は決して“地上の楽園”ではない。紆余曲折を経て帰北を果たしたナムだったが、そこには保衛部による過酷な尋問が待っている。つまり、祖国でも敵国と同じ目に遭うことになる。南は「自分たちの方が上」という傲慢さから、北は「南の方がいいと思われるのではないか」という怖れから、全く同じ行動をとる。“国境”がそれぞれの“正義”を生み出し、その正義はある者の人間性を喪失させる。また、ある者はその餌食となる。その姿はただただ悲しい。

祖国にも居所がないと悟り、禁止された漁に出て射殺されるナム。南に渡る前には妻(イ・ウヌ)の「明け方のあなたが一番男前」という言葉に欲情し、既に目を覚ましている娘ソリを気にせず交わるナムだったが、その日の朝は、(硬そうだが)大きなおっぱいを放り出されても行為を拒否して妻を泣かせている。果たして彼は気力が尽きていたのか。それとも自らの死を悟って新たな子をつくる行為を拒んだのか。娘が韓国土産の新品よりも古くてボロいクマのぬいぐるみを気に入っていたように、彼らには“元の生活”が幸せだったはずだが、そこには決して戻れない。ナムの妻のおっぱいは硬そうだったが、素朴な色白美人といった趣で、顔は好みだった。

韓国側の主要人物は三人。一人目は、ナムの警護を任されたオ・ジヌ。彼の祖父は朝鮮戦争時に北から南へと渡ったとのことで、ナムに対して同情的である。二人目は、“愛国心”溢れる取調官。何が何でもナムをスパイに仕立て上げようとする暴力刑事のような男である(ナムの自白を引き出すためのウソは日本の密室での取り調べを見ているようだった)。そして三人目は、彼らの上司の部長。言わば“事なかれ主義”の人であり、なるべく穏便にナムを転向させようとしている。それぞれの職分に沿った行動とも受け取れるが、各々にある程度は韓国人の北に対する意識が反映されているのではないか。

北では韓国を「南朝鮮」と呼び、南では北朝鮮を「北韓」と表現しているのが面白かった。「日本海」と「東海」みたいな関係なのかな。

The NET 網に囚われた男(字幕版)

The NET 網に囚われた男(字幕版)

  • 発売日: 2017/09/13
  • メディア: Prime Video