オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『オアシス』

오아시스(Oasis), 132min

監督:イ・チャンドン 出演:ソル・ギョングムン・ソリ

★★★

概要

前科者と障害者の恋。

短評

よくもまあ、こんな設定を思いついて、ちゃんとストーリーを成立させてしまうものだな、と感心させられる韓国の恋愛映画。社会のはみ出し者同士が惹かれ合うと言えばよくある話のようだが、その“視界の外”っぷりが凄い。“普通の人”が目を背けて認識しないような場所に二人だけの愛の形があり、それは危うくも確かに美しい。

あらすじ

ひき逃げ事故の刑期を終えて出所した28才のジョンドゥ(ソル・ギョング)。しかし、実家は引っ越し済みな上に家族との連絡もつかず、無銭飲食で捕まった末にようやく弟が迎えに来る始末。家族から明らかに歓迎されていないジョンドゥだったが、、被害者遺族に挨拶に行って出会った被害者の娘コンジュ(ムン・ソリ)に惹かれ、二人は交際を開始する。しかし、コンジュは脳性麻痺の障害者であり、世間は彼らの関係を理解しようとしない。

感想

ひき逃げ事故で相手を殺した割には軽いノリでコンジュの家に現れるジョンドゥ(本当は彼ではなく兄ジョンイルの身代わり収監)。彼はコンジュの兄に追い返されるも、後日、コンジュ宅を再訪し、「足がかわいい」という謎の口説き文句からのレイプ未遂(コンジュが気絶したので中断)。この最低野郎にコンジュが惹かれるのは意味不明に思えるが、彼女の方にも複雑な事情がある。

コンジュの兄がコンジュ名義で借りている綺麗な身障者用アパートに妻と二人で住んでいる一方で、コンジュは元のボロアパートに厄介払いされた状態となっている。月2万ウォンでコンジュの面倒を任されている隣夫婦は彼女に見られていようがお構いなく交わり出すし、兄夫婦は役所のチェックが入る時にだけ彼女を連れ出して利用する。要するに人間扱いされていないのである。

そんな悲惨な境遇に生きるコンジュは、割れた鏡に反射した光を鳩や蝶に見立てた妄想の世界に希望を見出している。兄夫婦たちに伝わることはないが、彼女にも願望が、意思があるのである。そんな彼女を「かわいい」と言ってくれるのがジョンドゥ。ひき逃げ事故の件は身代わりと言え、他に暴行と強姦の前科を持つ彼の言動を見る限り、明らかに“ボーダー”だと言っても差し支えないだろう。彼はろくでなしにしか見えないが、少なくともコンジュを“自分と同じ人間”として扱っていることだけは確かである。かくして、“他に誰もいない”二人の間に愛が成立する。

そうして付き合いはじめた二人だが、世間の目は冷たい。レストランに入れば「昼の営業は終わりました」と追い出されるし、ジョンドゥが家族の集まりにコンジュを連れていけば「なんでそんな女を連れてきたのか」と非難の目が集まる。挙げ句は、二人が結ばれている最中にコンジュの兄夫婦が現れ、ジョンドゥは強姦の罪で逮捕されてしまう(ジョンドゥが何の抗弁もせず逃げて捕まる辺りからも彼の知的水準が窺える)。

一見して“異常”だと分かるコンジュに集まる「うわぁ……」という視線。見てはいけないものを見てしまったような気まずさ。障害者に対する差別を理屈では否定するが、いざ当事者となった時、「なるべく関わらないようにしよう」という心理が多くの人に働くことだろう。それを象徴していたのが、ジョンドゥの“レイプ”を責める刑事の言葉だったように思う。曰く、「性欲が湧くのか?」。コンジュの肌は綺麗だし、脱がせればおっぱいもなかなかのもの。妄想パートの“普通の顔”は美人である。しかし、常に表情を大きく歪めた彼女を前にして、多くの男はその魅力に気付くに至らないことだろう(もしくは気付いても拒否感が上回る)。本作を観れば二人の愛の美しさに心を打たれる。しかし、同時に自分がどうしようもなく“部外者”だと思わずにはいられない。

四度目の収監生活となったジョンドゥだが、刑務所からコンジュに手紙を書き、彼女もそれを読んで嬉しそうにしている。きっとジョンドゥは刑務所生活なんて慣れっこだろうし、コンジュも彼の帰りを待つことができるだろう。部外者の介入とは無関係に、彼らの愛が揺らぐことはない。閉じた世界故の美しさに満ちたハッピーエンドだった。

コンジュはデート中に自分が“普通”にしている姿を妄想する。顔を歪めることもなく、滑らかに喋り、電車で向かいに座っているカップル(『ペパーミント・キャンディー』にも出演していたコ・ソヒ。イ・チャンドンはキャストを固定するタイプなのかな)の真似をする。インド人や像に囲まれて踊る妄想はともかくとして、こんな他愛のない妄想ですら“その通り”には決して実現しない。その願いは“普通の人”と何も変わらないのに。どこか非モテ民にも通ずる哀愁を感じた。

ジョンドゥが出所後に寒空の下で(半袖シャツで)豆腐を丸かじりしている。これは「身も心も潔白になるように」という願いの込められた風習なのだとか。他の映画でも見たような気がするのだが、『親切なクムジャさん』だったろうか(違うかもしれない)。この食べ方がとても汚くて、『ペパーミント・キャンディー』で“箸とスプーンを一緒に持って”食事していた場面を思い出した。