オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ウィザード・オブ・ライズ』

The Wizard of Lies, 132min

監督:バリー・レヴィンソン 出演:ロバート・デ・ニーロミシェル・ファイファー

★★★

概要

被害総額650億ドルのネズミ講詐欺師が逮捕される話。

短評

HBO製作のテレビ映画(HBO作品は2020年をもってプライムビデオから引き上げるようだが、HBO Max日本上陸への布石なのか)。バーナード・マドフという史上最大規模の巨額詐欺事件を働いた男の伝記映画なのだが、“成功と没落”というテンプレを利用しておらず、逮捕以降の彼の家族の崩壊だけに焦点を絞った作品となっている。したがって、犯罪映画としての“楽しさ”はないものの、『アイリッシュマン』にも通ずるデ・ニーロの“人生終盤”の演技が楽しめる一作となっていた。なお、『嘘の天才 〜史上最大の金融詐欺〜』という別タイトルが存在する。

あらすじ

2008年、史上最大規模、被害総額650億ドルの金融詐欺事件の容疑者としてバーナード・マドフロバート・デ・ニーロ)が逮捕される。ナスダック創始者の一人でもある彼の逮捕は大きな注目を集め、マドフ一家に対しても批判が殺到する。その一方で、バーナード以外の家族たちは長期に渡る詐欺について「何も知らなかった」と困惑を隠しきれず、一家の崩壊が始まる。

感想

詐欺の内容自体は典型的なポンジスキーム(=ネズミ講)とのことである。事件を知らなかった三十郎氏にとっては、どうやって650億ドルもの巨額資金を詐欺ったのかという点が気になるものの、そこにはあまり触れられていない(これは消化不足な気もするのだが、事件自体については自明ということなのか)。あくまで詐欺の発覚により一家が崩壊していく様子に絞って焦点が当てられている。

バーナードの家族がいくら「自分は知らなかった」と言っても、誰だって「いやいや、知ってたでしょ」と思うに違いない。二人の息子たちは同じ会社で働いているし、逆に知らずにいられるものなのかと疑うのが当然である。この点について、バーナードは詐欺の“本体”たる「投資顧問(秘密の17階)」とその他の事業を分離しており、息子たちが後者にしか関わらないように気を使っている。

息子たちが「父さんの後を継ぎたい」「投資顧問事業に関わりたい」と言えば「口を出すな!」と激怒するバーナードは、彼なりに“家族を守っていた”ことになるのだろう。それが一度逮捕されて詐欺が明るみになると、“何も知らされていなかった”という事実が家族を引き裂いていく。彼は守っていたつもりなのかもしれないが、それは息子たちにとっては尊敬すべき父の裏の顔であり、妻にとっては自分が信用されていなかったという事実に他ならない。彼らは家族であっても罪を共有していないのである。「ロブスターは食べられない」と話す息子マークにバーナードが無理やりロブスターを食べさせる場面があるのだが、その庇護も同様に支配的な押し付けに過ぎなかったのである。

そんなわけで、家族の心は父から離れていく。自分は何も知らされず、何もしていないのに、どうして非難されねばならんのかと。詐欺師の父をどうして守らねばならんのかと。遂にはマークが自殺に追い込まれ、妻ルース(ミシェル・ファイファー)は宅配の仕事をするまでに身を落とす。本作の視点だと、彼らもまたバーナードの“被害者”ということになるのだろう。しかし、事件後に大学で公演しているアンディが話しているように、特権を享受してきた彼らには全く同情できず、「詐欺師の一味」という見方しかできない。そのジレンマが彼らをより一層苦しめるのだろう。三十郎氏に言わせれば、「もっと苦しめ」だが。

ところで、彼らは“本当に”何も知らなかったのだろうか。本作はマドフの独善的な人間性を表現するために知らなかったという前提を置いているが、真相はどうなのだろう。場合によっては彼が“守りきった”ということもありうるのではないか。マークの死は前者の見方に説得力を与えるが、別に理由があったとしても何ら不思議ではない。

「貯蓄や家を失って破滅した」「老後の資金が吹っ飛んだ」と様々に阿鼻叫喚する被害者に対し、「彼らも気付いてたはず」「強欲なんだよ」と逆に非難するバーナード。彼が記者に対して「私はソシオパスか?」と問うて本作は終劇となるのだが、その側面を象徴していたように思う。ただし、“美味しすぎる話”の裏に気付かない被害者にも多少の責任はあるだろう(記者は「あなたを信用したのが悪いの?」と問うが、実際にその通りである。これがマドフを免責するわけではないが)。特に、被害者の紹介パートで「億万長者から無一文になった」という女性が登場するのだが、これだけは「ざまあみろ、金持ち」という気分になった。ルサンチマン、大いに結構!

マークの妻ステファニーを演じるクリステン・コノリーが美人。見覚えがあると思ったら、『ハウス・オブ・カード』のクリスティーナか。

ウィザード・オブ・ライズ (字幕版)

ウィザード・オブ・ライズ (字幕版)

  • 発売日: 2018/04/01
  • メディア: Prime Video