オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ハウス・ジャック・ビルト』

The House That Jack Built, 152min

監督:ラース・フォン・トリアー 出演:マット・ディロンブルーノ・ガンツ

★★★

概要

シリアルキラーが家を建てる話。

短評

当ブログの2020年を締めくくる邪悪なシリアルキラー映画。ウィルスに支配されて明るい話題を思い出せないような暗い1年には相応しいだろう。監督ラース・フォン・トリアーの前作『ニンフォマニアック』が「エロ」だったのに対し、本作は「グロ」である。前作と同じく“問答形式”を採用した一作なのだが、前作のラストシーンの影響もあって難解な議論を真面目に理解しようと努力するような真似はせず、割と派手にふざけている部分を笑いながら楽しめた。グロいことにはグロい作品なのだが、逮捕されないのが不思議なくらいに手際の悪いシリアルキラーなジャックには笑える場面も多く、“楽しいグロ映画”だったと思う。

あらすじ

強迫性障害持ちで自称建築家のジャック(マット・ディロン)。彼は、タイヤがパンクして立ち往生していた女(ユマ・サーマン)や未亡人、恋人シンプル(ライリー・キーオ)を殺した半生を、ヴァージ(ブルーノ・ガンツ)という男に告白する。ジャックは大量の殺人を犯す傍ら、理想に家を建てようと試みるが、こちらはどうにも上手くいかない。

感想

ステイシー・マーティンがあんなことやこんなことを!!」の衝撃的桃色作品だった前作『ニンフォマニアック』。魅惑のエロ描写の合間にシャルロット・ゲンスブールステラン・スカルスガルドが性についての難解な議論をしていて、その中には「なるほど」と頷けるようなものもあった。「これはただエロいだけでなく、思っていたよりも遥かに真面目な話なのだな」と感心していたところで、スカルスガルドが「バーカ、バーカ。そんなの全部デタラメだよ~ん」と言わんばかりの行動を最後にとる。

翻って本作。難解問答スタイルは前作から踏襲されているが、前作の影響もあり、「どうせ真面目に考えると損するんでしょ?」と、頭を悩ませることを避けながらの鑑賞となった。そもそも最初の犠牲者が“ジャックにジャッキに殺される(英語では両方「Jack」)”時点でジョークではないか。ジャックが潔癖症故に犯行現場に何回も戻る姿も笑えるし、第二の犠牲者を車で引きずりながらピザ用冷凍庫に運び、顔が削れてなくなっているのも笑える。絞殺したはずの女が「ゲップ」と息を吹き返す場面はこちらも吹き出したし、死体とのピクニックだってマネキンみたいでシュールである。何か難しそうなことを言っているが、基本的には“楽しい映画”なのだと思う。

とは言え、『ニンフォマニアック』と同じく「なるほどな」と思わせられる議論もある。ジャックは自身の行為を「芸術」と捉えており、歴史上の残虐行為を肯定的に捉えている。たとえばナチスによるホロコーストの記録映像は本物だと知っていれば身の毛もよだつ恐ろしいものだが、仮にこれが“作り物”であったとすれば、「ものすごいものを撮った」という感想を抱くことだろう。ジャックの言葉を借りれば「壮大さ」である。彼は狩りの獲物を“陳列”するが、そこにある種の美しさを認めないわけにはいかない。

倫理的側面から真っ先に否定されるべき悪辣な行為であっても、見方を変えれば“偉大な創作物”なのだと。ジャックとヴァーヴが問答している時にはグロテスクな絵画が画面に映し出されているのだが、“芸術”という側面から見れば同じ行為なのだと。ジャックはそれを殺人という形で表現し、トリアーは悪趣味映画という形で表現する。奪われた命を、撮影中に不快な思いをした関係者を、“永遠”に変える崇高な行為なのだと。ジャックが「男に生まれただけで罪を背負わせられる」と語る場面があるが、これには監督の怨嗟が込められていて笑えた。

ジャックの理想の家は“死体ハウス”という形で完成し、最後は(赤く照らされた洞窟がとても綺麗な)地獄へ落ちる(どちらも死後の描写だろう)。ただし、ジャックには自ら地獄を求めているようなところがあり、これこそが彼の根幹であるように感じた。人は「善」と「悪」の前者であろうとするが、基準が変われば善は善たりえず、悪こそがその人にとっての善となりうる。「地獄に行くのはイヤだ。天国に行きたい」ではなく、「地獄バンザイ!こここそが自分の居場所」であると分かれば、常軌を逸しているようにも思えるジャックの行動が、筋の通ったものであったことになるのだろう。シリアルキラーに我々の基準は通用しない。

「いいおっぱいだな」と褒められたおっぱいを切断されるシンプルことジャクリーン(彼女はこれを侮辱と受け取るが、三十郎氏に言わせれば賛辞に他ならない。細かいことでも人によって“基準”は異なる)。ライリー・キーオのおっぱいはジャックの称賛通りに大変に素敵なのだが、切り取られた乳房はまるで魅力的ではなく、おっぱいがそれ単体ではおっぱい足りえないことを思い知らされた。胴体にくっついていてこそのおっぱいなのだ。血が通い、温かく、そして柔らかい。三十郎氏はこれまでおっぱいを人格から切り離して評価しようとしていたが、この二つは不可分なのである。ジャックが記念品として“おっぱい財布”を作ったのは最高に笑えた。

ハウス・ジャック・ビルト(R18+版)(字幕版)

ハウス・ジャック・ビルト(R18+版)(字幕版)

  • 発売日: 2019/12/04
  • メディア: Prime Video