オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『チャタレイ夫人の恋人』

Lady Chatterley's Lover, 89min

監督:ジェド・マーキュリオ 出演:ホリデイ・グレインジャー、リチャード・マッデン

★★

概要

夫がインポになった妻が森番と不倫する話。

短評

2015年にBBCが制作したテレビ映画。まさかの“おっぱいなし”である。テレビ映画なのであからさまな描写はないだろうとは思いつつも、『ねじの回転』で「BBCはおっぱいOK」と認識していただけに全く無いのには驚いた。あのチャタレイ夫人である。原作は猥褻裁判を起こされた伝説の一冊である(読んでないけど)。そこからエロを取って何が残るというのか。階級格差を強調したドラマに仕上がっており、これまでに観てきた“エロの合間に申し訳程度のストーリーを進める”映画化作品に比べれば文学的な香りが漂っていたものの、やはり物足りなさばかりが印象に残った。

あらすじ

パーティーで出会ったクリフォード・チャタレイ男爵と結婚したコンスタンス(ホリデイ・グレインジャー)。しかし、出征した夫は下半身不随となって帰ってくる。科学的療法によって“復活”を目指すクリフォードだったが、息子が再び硬くなることはなく、炭鉱経営に精を出すようになる。一方のコンスタンスは、森番として雇われたメラーズ(リチャード・マッデン)と惹かれ合い、逢瀬を重ねるようになる。

感想

桃色映画世界のチャタレイ夫人たちは、「夫が不能になったところにちょうどいい別の陰茎がある」くらいのノリでひたすらメラーズと交わっていたように思う。一方、性描写の少なさ以外は原作に忠実と思われる本作は(こればかりは読んでみないと分からないが)、ただの“竿役”だったメラーズの背景にもしっかりと光を当てていた。クリフォードが経営する炭鉱で働いていたことや従軍時に彼の部隊に所属していたこと。そして、出征中に妻を寝取られていたこと(寝取られは連鎖する)。少なくとも“モノが本体”の男ではなくなっていた。

メラーズはクリフォードに雇われながらも、炭鉱の爆発事故や指揮官が出撃時に後方待機していた経験から、彼を恨んでいる節がある。また、使用人のボルトン夫人(ジョディ・カマー)も爆発事故で夫を亡くしており、彼らによる“寝取り”や“告発”には階級間の怨嗟が滲んでいる。

クリフォードは「跡継ぎが欲しい」と言い、夫人が同じく上流階級のダンカンと不倫するように仕向ける。「妻が他の男と寝ても構わない」と承知しているわけである。しかし、その相手がメラーズだと分かると「それはない!」と激昂する。つまり、夫人とメラーズのロマンスは、“上流階級の価値観”を否定することに他ならない。クリフォードが陰茎云々で悩んでいる一方で、彼に責任がありながらも視界にすら入ってこない庶民が苦しんでいる。そうした事情が分かりやすく描かれていたように思う。

その一方で、上流階級を否定するためのロマンスは「そこに棒と穴があるから」程度のものでしかなかったように思う。「夫が勃たないし……」な夫人と「妻を寝取られちゃったし……」なメラーズ。彼らの間に生じた愛は階級を乗り越えるが、物語の社会性が高まる程に、その切っ掛けは舞台設定的に感じられる。

なきに等しいエロシーンだが、映るのはロブ・スタークことリチャード・マッデンの胸毛に包まれた乳首ばかりで、夫人役ホリデイ・グレインジャーのものは巧妙に、そして念入りに隠蔽されていた。男性向けの桃色映画からは程遠く、女性向けのソフトポルノとしても生ぬるかった。チャタレイ夫人の欲求不満はメラーズが解消してくれるが、これでは三十郎氏の欲求不満が溜まるばかりである。

チャタレイ夫人の恋人(字幕版)

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  • 発売日: 2019/07/01
  • メディア: Prime Video
 
完訳チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

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