オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『I AM YOUR FATHER アイ・アム・ユア・ファーザー』

I Am Your Father, 81min

監督:トニ・ベスタルド、マルコス・カボタ 出演:デヴィッド・プラウズ、コルム・ミーニィ

★★★

概要

ダース・ベイダーの中の人のドキュメンタリー。

短評

映画史上最高の悪役(異論はあるかもしれないが言い切ってしまってよいだろう)ダース・ベイダーを演じたデヴィッド・プラウズについてのドキュメンタリー映画。彼は先月28日に亡くなったばかりであり、「追悼せよ」と言わんがばかりのプライムビデオ追加である。彼の名前や顔出しシーン(吹替の声も)を演じたのが別人であることくらいは知っていたが、ケニー・ベイカーアンソニー・ダニエルズと比べて表舞台に出てこない理由を知らなかったため、シリーズのファンとしては非常に勉強になる一作だった。プラウズに“あのシーン”を演じさせるのは旧三部作信者の監督による自己満足の感がなくもなかったが、上映会で喝采を浴びるプラウズ本人が満足そうにしていたのでよしとしよう。

あらすじ

映画史上最も有名な悪役となったダース・ベイダー。ベイダーを演じたのはデヴィッド・プラウズ、イギリスの俳優である。シリーズの枠を超えてポップカルチャーのアイコンとなったベイダーだったが、EP6で遂に素顔を晒すシーンではセバスチャン・ショウという別人が演じていた。本作は、プラウズの生い立ちからキャリア、そして別人が使われた理由に迫りつつ、80才となったプラウズ本人に“あのシーン”を演じてもらうことを依頼する。

感想

イギリスはブリストルで生まれ、恵まれた体格の大男に成長したデヴィッド・プラウズ。重量挙げやボディビルダーの世界で活躍した後に、ハマー映画という制作会社で怪物役として活躍する(『時計じかけのオレンジ』への出演や『スーパーマン』のクリストファー・リーヴの肉体改造といった業績も)。その時の撮影スタジオがスター・ウォーズと同じであり、ベイダー役を演じる大男を探していた制作陣の目に止まったというのが出演の切っ掛けである。

そうして見事に“大役”を掴んだプラウズだったが、例のシーンで撮影から外された理由をプロデューサーたちが二つの点から語っている(ルーカスはインタビューに応じず)。一つ目は、彼が“若すぎた”というもの。これは本人も「僕は若くてハンサムすぎた」と語っているように、もっともな理由だろう。注目は二つ目である。プロデューサーの一人が「彼は口が軽すぎた」と語っているのだが、EP6の撮影中にデイリー・メール紙が「次作でベイダーが死ぬ」と報道した際に(新聞がネタバレするのか……)、記者がプラウズから証言を得たことになっていたのである。ネタバレ野郎は大事なシーンから外してしまおうということである。

しかし、その記事を書いた記者本人が本作で語るところによれば、それは全くの冤罪なのだとか。匿名の関係者から情報を得て記事にする際にベイダー役のプラウズの名前を使ったとのことである。プラウズも「台本を渡されるのは前日だから知っていたはずがない」と語っており、それが全ての原因なのかは不明だが、彼とルーカスフィルムの間の確執の理由となっていた無実の罪が晴らされたことになる。再現シーン以上に大きな本作の功績と言えるだろう。

プラウズに“あのシーン”を演じさせることはルーカスフィルムから許可が降りなかったが、監督が「プラウズは80才だぞ。今やらなくていつやる!」と強行する。なお、「マスクとプラウズを一緒に映すのは禁止」とのことだったので、本作の中では“そのシーン”が見られない。それはともかく、監督はこれを“栄誉を取り戻す行為”としているのだが、新三部作から入った三十郎氏としては「創造主ルーカスの意向であれば、それがスター・ウォーズなのだ」と思っているため(ルーカス以外がやるとどうなるのかが分かった今、三十郎氏はこの思いを強めている)、あまり意味のある行為には思えなかった。ただし、上映会後のプラウズの表情はとても満足げで、こちらも嬉しくなるようなところはあった。

きっとプラウズの素顔に好感が持てるように描かれていることも影響しているのだろう。映画の世界以外ではグリーン・クロス・マンという交通安全のCMに出演し、子供の交通事故を減らした功績を称えられて大英帝国勲章を受勲している。彼がサインをする際に、三十郎氏にも読めるような文字を丁寧に書いているのが印象的で、真面目で驕らない人柄が現れているような気がした。

撮影中のエピソードで面白かったのは、EP6でベイダーが皇帝を投げ捨てる場面の話。このシーンでもプラウズが外されてスタントマンが演じていたのだが、何度やっても上手くいかず、見かねたプラウズが「重量挙げチャンプの自分に任せろ」と買って出る。もちろん一発OKである。この話をしている時のプラウズは非常に誇らしげであり、「我こそが真のベイダー卿」という自負が垣間見えた。チューバッカとベイダーの選択肢があって、「毛むくじゃらのゴリラよりも敵のボス役の方が良い」と語る場面も楽しかった。また、EP5公開後の話で、プラウズの息子ジェームズが「その日から僕はルークになった」と語る場面も可笑しかった。

EP4公開後のインタビューを根拠に「プラウズこそがルークとベイダーの親子説の発案者だった」という仮説を唱える場面があるのだが、これは逆だろう(実際に映画の最後にルーカスの発案と認めている)。彼がいかにベイダーというキャラクターを理解していたのかを強調したかったのだろうが、本当にそうだと思っていれば周囲には伏せるはずである。これも「口が軽い」という性格の一端なのかもしれないが……。もっとも、彼のサービス精神がなければ本作も成立しなかったことだろう。

最後に出てくる印象的な言葉──「どんな映画でも記憶に残るのは悪役」。これは確かに当たっている。どんなヒーローであっても、基本的には魅力的なものと相場が決まっている。悪役のキャラクターこそが映画の出来栄えを決めるのだ。

I AM YOUR FATHER / アイ・アム・ユア・ファーザー(字幕版)