オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『SPL 狼たちの処刑台』

殺破狼 貪狼(Paradox), 99min

監督:ウィルソン・イップ 出演:ルイス・クー、ウー・ユエ

★★★

概要

娘がタイで誘拐される話。

短評

香港のアクション映画。誘拐事件を扱う物語として幕を開けるため、シリアスなクライム・スリラーなのかと思いきや、「タイ社会における華僑の躍進が著し過ぎる」といったツッコミどころが続々と浮上する。やけに気合の入った追跡劇を演じたところで凡その事情を察し、トニー・ジャーが暴れる場面で完全に納得した。ストーリーはシリアスを貫いているものの、ガバガバ具合はジャッキー映画のそれである。それを理解してからは楽しめたのだが、最後まで貫かれてしまったシリアス展開とのアンバランス感がなくもなかった。

あらすじ

妻が事故死して以来、男手一つで一人娘ウィンチー(ハンナ・チャン)を育ててきたリー。友人に会うためにタイを訪れていた娘が失踪したとの一報を受け、彼はすぐさま現地へと飛ぶ。香港の警察官であるリーは、現地警察チュイと共に娘の行方を追うのだが、事件は市長や警察幹部までもが関係している犯罪組織による誘拐であることが判明する。

感想

リーが香港からタイに飛ぶ。これは分かる。現地警察のチュイが華僑で中国語ペラペラ。これは少し分からないが我慢する。しかし、市長も華僑、事件の鍵を握る娼婦(ジャッキー・チャイ)も華僑。皆が皆中国語ペラペラとなると、流石にタイが舞台の話としては違和感がある。タイ語なんて「サワディーカー」「コップンカー」くらいしか聞こえてこず、英語のシーンの方が多いくらいではなかろうか。事件の裏には臓器売買があるため、香港や中国本土を舞台にしづらかったのではないかと察するが(だからってタイに押し付けるなよ)、“異国”という設定はないに等しかった。

香港の警察だからと言って「俺も捜査に加わるぞ」としゃしゃり出れば、普通は「いや、あんたは引っ込んでろ」となるはずだが、チュイは何の問題もなく受け入れる。リーが真相に迫るのは、ウィンチーを誘拐した刑事バンが娼婦に放尿プレイして恨みを買い、リーに密告されるという流れからという意味不明な自滅型。トニー・ジャー演じる刑事タクがサイコメトリーのようなことをするが、この能力の描写が回収されることはない。シリアスを装ってはいるものの、話としてはガバガバ極まりない。

というわけで、真面目な話だと思って観ているとバカらしくなってしまうのだが、本作は“アクション映画”である。リーは香港警察なので当然にカンフーが使えるし、チュイも華僑刑事なので当然にカンフーが使える。そこにカンフー使いがいれば、敵もその文脈に則って戦いを挑んでくる。トニー・ジャーもいるので別種の戦い方も楽しめる。ジャッキー映画なんかに比べると流石にカットの切り替えが多いものの、そこそこ迫力あるアクションには仕上がっていた。最終決戦の舞台となる精肉工場では、カンカンと打ち合った包丁が“ノコギリ”のようにきっちりとヘコんでいたりして、細かい箇所にも気を使っていることが分かる(工場引き回しの刑も楽しかった)。武器もなしに堂々と一人で工場に乗り込むリーにはターミネーター感があった。

ウィンチーの誘拐は単なる旅行者狙いのため、理由があって彼女が選ばれたわけではない。しかし、元を辿ればリーに原因があり、このやるせなさだけはシリアス路線に合っていた。ウィンチーの訪泰は、「父親が結婚に反対して中絶させられたから」という理由の傷心旅行である。全てはリー自身に原因があったのだ。市長の部下の「天災だと思えよ」発言には、「いやいや、お前人間じゃん」と思ったが、リーもまた胎児に対して同じことをしていたという皮肉である。最後に死んで責任を取った形になっていたが、あの部下が死んでしまっていては、チュイの妻を監禁している奴らに指示を与えられる人間もいないのでは?

「SPL」というのは、「殺破狼」の中国語読みである「シャー・ポー・ラン(Sha Po Lang)」の頭文字を取ったもので、本作はウィルソン・イップ監督によるシリーズ3作目とのことである。1作目はドニー・イェン主演の『SPL 狼よ静かに死ね』。2作目はトニー・ジャー主演の『ドラゴン×マッハ!』(監督が別人)。トニー・ジャーの役名が異なるので、ストーリー上の繋がりはなさそう。

SPL 狼たちの処刑台(字幕版)

SPL 狼たちの処刑台(字幕版)

  • 発売日: 2019/08/01
  • メディア: Prime Video