オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ピンク』

Pink, 130min

監督:アニルッダー・ロイ・チョウダリー 出演:アミターブ・バッチャン、タープシー・パンヌ

★★★

概要

セックスを拒否して相手を殴った女が殺人未遂で逮捕される話。

短評

歌って踊らないインドの法廷ドラマ。はっきり言って論理構成面の緻密さは皆無に近く、法廷劇としての出来が良いとは言い難い。しかし、21世紀に入って四半世紀が経とうかという今もなお跋扈する「女にだって責任がある」という化石的思考に対する強い怒りが感じられる作品であり、現代社会に生きる男性ならば当然に知っておくべきことが描かれている。作劇の面では盛り上がりに欠け、説教臭さが前面に出てはいるものの、間違いを犯さずに済むように事前に説教されておくのも悪くはない。「“ノー”は“ノー”」なのだと。

あらすじ

身体を求められた際に強く拒否するあまり、相手の男に怪我をさせてしまったミナル(タープシー・パンヌ)。ルームメイトのファラクキールティ・クルハーリー)やアンドレア(アンドレア・タリアン)と共に現場から逃げ出したものの、相手から脅迫を受けるようになる。警察に被害を届け出るもまともに取り合ってもらえず、相手が権力者の甥であったことから、逆にミナルの方が殺人未遂の容疑で逮捕されてしまう。その様子を見ていた近所の老弁護士セーガル(アミターブ・バッチャン)が弁護を買って出る。

感想

ミナルの殺人未遂容疑についての裁判だったはずが、最終的には逆に原告側の男が婦女暴行の罪で判決を受けている。インドの刑事司法制度が実際にどうなっているのかは知る由もないが、これは流石に無理がないか。セーガルが「報復のために起訴はできないはず」と発言しているように、本来、殺人未遂と婦女暴行は別個に審理されるべきだと思うのだが、なぜか本作ではまとめて扱われている。男が“弁護”を受けることなく有罪判決を受けてしまうというのは、女性蔑視的な社会“通念”と同様に、もしくはそれ以上に危険な社会“制度”ではなかろうか。

そうした裁判の構図もなのだが、内容についても“事実”を争うものにはなっていない。「実際に何が起きたのか」という客観的事実を検討した上で、それがどの法律に抵触するのか(あるいはしないのか)を認定する場が裁判だと思うのだが、本作は事実を通り超えて“価値観”の争いに終始している。「原告の考え方は間違っている。だから被告の言い分こそが正しい」と。「これは法廷でする話なの……?」という描写が大半を占めている。

したがって、“法廷劇”という観点からだと、本作は全く評価に値しない(インドの司法制度が実際にこうなっているのならごめんなさい)。しかし、そうした司法制度の基本的前提を無視してもなお主張しようとしたメッセージは非常に力強い。

合意なき性行為に際して男が皆口にするのは、「女の方も乗り気だった」というものである。「派手な化粧や服装をしていたら“そういう女”だ」「笑顔とボディタッチは誘っているサイン」「家に来て二人きりなればOKに決まっている」といった考えは、現代の日本にも根強く残っているだろう。そこに「酒を飲むのは悪い女の証」「実家で暮らさない女なんて娼婦」といったインド的とんでも思考まで乗っかった男の欺瞞を、セーガルがことごとく糾弾していく。彼がどうしてここまで“怒って”いるのかは描かれないが、きっとそれは世界中の女性たちを代弁しているのだろう。そんな古臭い化石のような価値観が、“いかに間違っているのか”を突きつけるための一作だった。

日本語には「嫌よ嫌よも好きのうち」という言葉がある。英語だと「No means Yes」である(『ボラット2』に出てきて覚えた)。しかし、セーガルが言うように「“ノー”は“ノー”」なのである。男ならば誰しも「でも、実際に“ノー”が“イエス”の状況もあるよね?その時はどうすればいいの?」と言いたくなるに違いない。三十郎氏だってそう思う。きっと女性にも「“ノー”が“イエス”も駆け引きの内」と思って利用している人がいることだろう。そこで、発想の転換をしてみよう。

仮に男の側に「“ノー”は“ノー”」の意識が徹底されたとする。「ノー」と言われれば「そうか、ダメか」とあっさり撤退する。すると、「“ノー”は“イエス”」を使っていた女性が行為を望んでいる場合、女の方も戦略の転換を迫られることになる。ゲーム理論である。つまり、女が「“イエス”は“イエス”」とハッキリ言う必要が出てくる。これは双方にとって良いことではないか。女は望まぬ行為をきっぱり断れるし、男は「どっちなのか分からん」と“思わせぶり”な(もしくは自分がそう思っているだけの)態度に頭を悩ませる必要がない。勝手に期待して無駄な金と時間を費やすこともなくなる。むしろ“受け入れ側”から誘うのが主流になって楽できるかもしれない。千年単位で続いてきた男女の関係が簡単に変化するとは思えないが、変わった方が男にとっても有利かもしれない。

ピンク

ピンク

  • 発売日: 2020/09/16
  • メディア: Prime Video