オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『哀しき獣』

황해(The Yellow Sea), 141min

監督:ナ・ホンジン 出演:ハ・ジョンウ、キム・ユンソク

★★★

概要

延辺州の朝鮮族の男が殺人の依頼を請けて韓国に行く話。

短評

どぎつい暴力描写と淀んだ雰囲気が魅力の韓国ノワール映画。韓国の犯罪映画には面白い作品が多いものの、どれも少しやり過ぎると言うか、“くどく”なる傾向があるように思う。本作もカーアクションなどによってエンタメしてはいるものの、“物語”については硬派を貫いており、陰惨な流血沙汰を“楽しいシーン”として見られないのが逆に良かった。複雑に入り乱れた人間関係は少々分かりづらいものの、監督の次作『哭声/コクソン』とは異なり、特定分野の知識がないと理解できないという類のものではなかったと思う。

あらすじ

中国の延辺自治州でタクシー運転手をしているグナム。韓国に出稼ぎにいった妻と連絡が取れなくなり、後にはビザ取得のための借金と一人娘スンヒだけが残されていた。そんなグナムに借金取りがミョン・ジョンハクという裏社会の男を紹介する。ミョンからキム・スンヒョンの殺害を依頼されたグナムは韓国へと渡り、ソウル市内で暗殺の算段を立てつつ妻を探そうとするのだった。

感想

映画の冒頭で説明がある通り、延辺州はロシア、北朝鮮と接する中国の領土である。ここから多くの朝鮮族が合法・非合法を問わず韓国へと出稼ぎにいくようだが、その方法はやはり“密航”だった。流石に北朝鮮を陸路で進むわけにはいかないのか。その時に渡る海が原題の『黄海』というわけである。この密航が、途中で死者は出るし、海に放り込まれるしで、なかなかどころではなく大変そうである。

ブローカーに多額の借金をし、命懸けでも韓国に行かなければ生活が苦しいという切迫した状況が物語の背景にあるのだろう。いざ韓国にやって来ても二級市民扱いで、本国送還を避けるべくひっそりと暮らさざるを得ない。グナムは妻が寝取られている夢を散々見て、周囲からも「浮気して逃げたに違いない」と言われているが、出稼ぎ女たちにも何らかの後ろ盾が必要であることが察せられる。北と南の経済格差も大きいが、そのもう一つ北でも同じ民族が苦しんでいるらしい。それを主題にしてしまうと説教臭くなるが、あくまで背景として物語に織り込んでいる辺りが好みだった。

グナムがスンヒョン殺害計画を立ててマンションの前に待機していると、他の刺客が現れてキムを殺害。ミョンの指示通りにキムの“親指”を回収しにいったグナムが、警察に、そしてキムの関係者のテウォン(が殺そうとして結局は依頼するハメになったミョン)に追われる展開である。二度の大掛かりなカーチェイスが用意されていて、特にトラックの横転シーンはかなりの迫力だった。現場から逃げるグナムを多数の警官とパトカーが一般市民の私有財産を破壊しながら追跡し、結局逃げ切られてしまうというのは、“大目玉”どころでは済まないだろう。このシーンの出来自体は良いのだが、エンタメ成分は暴力だけで十分な気がしなくもなかった。

延辺州の裏社会を仕切るミョンを演じるキム・ユンソクが「サモ・ハン・キンポーを少しシュッとさせたら邪悪な人相になった」という雰囲気で、その怪演は圧倒な存在感を放っていた。彼の前ではヤクザと繋がっている社長のテウォンが“一般市民”にしか見えなくなる。辺境の地で経済ヤクザへと変化しえない集団の、プリミティブな暴力の恐怖は、本作の生々しい流血描写によく合っていた。

韓国ノワールの大きな見所である流血描写。本作でも質・量共に圧倒的に生々しいそれが見られる。包丁や小斧といった武器での攻撃も痛々しいのだが、ミョンが“骨”を使うが印象的だった。彼の一味が茹でた骨付き肉に食らいついているシーンがあるのだが、これが何の肉か分からなくて気味が悪い。犬商人なので犬肉ではないかとも思ったが、それにしては骨が大きい。その骨がそのまま武器となる。

殺されたと思われた妻が実は生きていたという結末は死体の確認シーンから予想通りだったが、あのハゲ親父が複数の女を囲っていたことになるのか。少々無理のある展開にも思えたが、それだけ出稼ぎ女たちが困っているという状況なのだろうか。全ては女を巡る痴情のもつれが発端だったわけだが(皆が寝取られ男である)、その女の一人であるテウォンの魚顔系の恋人(イー・エル)はおっぱいが硬そうだった。

殺されたスンヒョンは柔道メダリストの大学教授なのだが、教授がヤクザって嫌すぎるだろう。これも何か実際の社会情勢を反映していたりするのか。

哀しき獣(字幕版)

哀しき獣(字幕版)

  • 発売日: 2014/08/01
  • メディア: Prime Video