オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ロシアン・スナイパー』

Битва за Севастополь(Battle for Sevastopol), 123min

監督:セルゲイ・モクリツキー 出演:ユリア・ペレシルド、ジョアン・ブラックハム

★★★

概要

“死の女”と呼ばれたソ連の女スナイパーの半生。

短評

第二次大戦で309人を射殺した伝説の女性スナイパー、リュドミラ・パヴリチェンコの伝記映画。思っていたよりも恋愛要素の強い一作だったが、「“現代のロシア”が、“当時のアメリカ”の価値観を借りて、“当時のソ連”を批判する」という構図が興味深かった。また、戦闘シーンには泥臭い迫力があり、(やたらと“こぶしの効いた”ロシア語の曲で盛り上げる演出を除けば)戦争映画としても面白い一作である。リュドミラを演じたユリア・ペレシルドは、“キリッとしたエミリア・クラーク”といった雰囲気で素敵だった。

あらすじ

1957年。ソ連を訪問したルーズベルト元大統領夫人が、フルシチョフを待たせてまで会いたい人がいると言う。相手の名は、リュドミラ・パヴリチェンコユリア・ペレシルド)。309人のナチス兵を葬り、“死の女”と呼ばれた女性スナイパーである。二人の出会いは1942年にアメリカで開催された学生会議。その前年にセヴァストポリの戦いに参加したリュドミラの半生が明かされる。

感想

「優秀なスナイパーが1942年に戦地を離れてアメリカに行くなんて、何をしているんだろう?」との疑問が当然に浮かぶわけだが、ここには二つの理由がある。一つは、厳しい戦いの中でリュドミラがボロボロになっていしまい、もう戦えなくなってしまったという本人の事情。もう一つは、前線から離れても“プロパガンダ要員”として利用できるという軍部の事情(「“英雄”に死なれては困る」という事情もあったらしい)。訪米の理由は後者である。

射撃の才能を認められて学生時代に訓練を受けていたリュドミラは、軍人の父の影響もあって狙撃手に志願する。そして、伝説的な腕前を披露するわけだが、戦いの中で二人の男を失うことになる。一人目は、配属された部隊の隊長マカール。リュドミラが思いを寄せる相手である。二人目は、マカールの後任の新隊長レオニード。硬派だった前任とは異なり、こちらは彼女と関係を持つ。「将校の女」と揶揄される場面がある通りに権力者を乗り換えていく女性なわけだが、戦時下に“頼れるオス”を求めるのは自然な感情の発露だろう。砲撃の影響で生き埋めになったことから精神的な影響が出はじめていたが(ホワイトハウスでもPTSDを発症する)、愛する男たちの死の方が影響は大きそうだった。一途に彼女を愛したのに、二度もBSSを経験するボリスはご苦労さま。

この恋愛パートにはあまり興味が湧かないものの、この男女の性別意識がアメリカ編に活きてくる。傷ついてボロボロになったリュドミラをソ連が“一人の同志”として扱う一方で、ルーズベルト夫人は“一人の女性”と扱おうとする。当時のソ連の考えは、「男も女も関係なく、全員が同志として戦う」というもの。それに対してアメリカは、「女が戦うなんて」「男が守るべきなのに」と考えている。本作は後者に同調する姿勢をとっているのだが(セヴァストポリからの撤退で国民や兵士よりも将校や資料を優先した点にも批判的)、これはなかなかに興味深い。

つまり、“現代のロシア”が“当時のアメリカ”的な価値観に変化している一方で(『バタリオン』や『レッド・リーコン1942』でも同様に女性兵士投入の悲劇性が強調されている)、“現代のアメリカ”は“当時のソ連”のような価値観に近付いているように思われる。どちらが正しいとかいう話ではない。単純に“変化”が面白いだけである。きっとロシア側には”反動”という要素があるだろうし、アメリカの女性には“本当の戦場を知らない”という事情があるだろう。「男と女は同等の能力を持つ」という考えが有事によって否定されることになるのかは分からないが、分からないままの方が良いに決まっているという構図がまた面白い。

生々しい地上戦の他に、(CGのクオリティはそれなりだが)軍艦を戦闘機が襲うシーンやドッグファイトなんかもあったりして、戦闘シーンの迫力はなかなかのものだった。『アメリカン・スナイパー』にも見られた“標的に向かって飛んでいく銃弾をCGで描く”演出があるのだが、この演出の初出はどの映画なのだろう。ほぼ同時期の作品なので、邦題は同作にちなんだものか。

英題から推測するに、原題は「セヴァストポリの戦い」という意味なのだろう。これまでにハリウッド映画で見てきた西部戦線とは異なり、おびただしい数の死者を出した独ソ戦のことを三十郎氏はあまりよく知らない。先日読んだ本には「広大なロシアを占領するなんて土台無理な話」という程度にヒトラーの“間抜けな失敗”扱いされていたが、勝ったソ連も決して楽勝というわけではない。以前、独ソ戦についての新書が話題になっていたし、読んでみようかな。

ロシアン・スナイパー(字幕版)