オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『人間はどこまで耐えられるのか』フランセス・アシュクロフト

Life at the Extremes: The Science of Survival/Frances Ashcroft

概要

人間はどこまで耐えられるのか。

感想

イギリスの生理学者による一冊。タイトルの印象から『世にも奇妙な人体実験の歴史』のようなノリを期待していたのだが、思っていたよりも“真面目”な内容だった。「高さ」「深さ」「暑さ」「寒さ」「速さ」「宇宙」の6つの観点から、それらの環境が人体にどういった影響を与えるのかの生理学的な説明が中心となっており、その延長線上に「どこまで耐えられるのか」も位置している。どこまで耐えられるのかを調べるためだけに無茶をするような話ではないため、娯楽としての面白さはそれ程でもないものの、“専門書の入門書”よりも読みやすい内容となっており、サクサクと読み進められた。

第1章『どれくらい高く登れるのか』には主に低気圧の影響が記されている(第2章では逆に高圧の影響)。登山に加えて飛行機についても書いてあるのだが、映画でよく見かける爆破等によって機体が破損した場合、人間が意識を保っていられるのはせいぜい30秒程度なのだとか。それを防ぐための酸素マスクというわけである。つまり、『ファイト・クラブ』でタイラーが言っていた「酸素を吸ってハイになる」は間違っていることになる。吸わなければ墜落までに意識を失って苦しまずに死ねる。

第3章『どれくらいの暑さに耐えられるのか』に気になった点が一つ。身体の表面積が広い方が発汗による体温調節に有利とのことで、アフリカ人は手脚が長く進化している。逆に寒い地域のイヌイットたちは低身長でずんぐりとしている。これは説得力があるように思えるが、北欧圏やロシアの人々がずんぐりとしている印象はないし、蒸し暑い東南アジア諸国の人々は低身長である。ラップランドの原住民はずんぐりなので、民族の移動の歴史的経緯や湿度の差が影響しているのだろうか。

第4章『どれくらいの寒さに耐えられるのか』は、基本的に「熱を生み出すためにどれだけのエネルギーを摂取できるのか」に依存する。食事のよって摂取するか体に蓄えた脂肪を使うのか二択である。つまり、有酸素運動や食事制限に頼らずとも、冬場に薄着で外に立っているだけで相当なカロリーを消耗してダイエットができることになる。きっと風邪をひいて寝込むため、二重の効果が得られるだろう。最悪の場合は低体温症で死ぬことになるが。

第6章『宇宙では生きていけるのか』。宇宙に行くと身長が伸びるらしい。「朝起きた時は寝る前よりも身長が高い」の強化バージョンである。もしや某お金配りおじさんが月旅行に行こうとしていた理由って……。なお、宇宙線により癌のリスクが高まるため、宇宙旅行に行くのは人生の終盤が推奨されていた。「重力加速度(G)」についてのコラムでバンジージャンプの話が出てくる。「飛び降り自殺は途中で意識を失って地面に着いたら即死だから苦しくない」という話を聞いたことがあるのだが、バンジージャンプで気絶しないなら飛び降りも同じではないのか。

100m走の世界記録の更新が「五年でわずか0・六秒」となっていたり、海女の話で「ナマコ」が「ナメコ」となっていたりと、いくつか誤植が見られた。100m走の記録がで0.6秒も縮んだら大変なことである。人類は8秒台の壁を超える。