オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『危険なメソッド』

A Dangerous Method, 99min

監督:デヴィッド・クローネンバーグ 出演:マイケル・ファスベンダーキーラ・ナイトレイ

★★★

概要

ユングフロイトとドM患者。

短評

キーラ・ナイトレイが“お尻ペンペン”されて悶え悦ぶ一作。正直に言うと三十郎氏は心理学に興味がないため、ユングフロイトという当該分野の大家二人の関係に心躍るところは何もない。「逆転移」と呼ばれる現象についても、“朱に交われば赤くなる”的な展開以上の何かを読み解けはしない。しかし、キーラ・ナイトレイが控えめなおっぱいを申し訳程度に見せびらかしつつ、尻を叩かれて恍惚の表情を浮かべる姿は必見であり、それだけで十分な価値を感じられる一作だった。彼女の気狂い演技も秀逸である。

あらすじ

1904年。チューリッヒの病院に一人の錯乱した女性患者が担ぎ込まれる。彼女の名はザビーナ(キーラ・ナイトレイ)。入院後も奇行を繰り返す彼女を精神科医ユングマイケル・ファスベンダー)が診察したところ、幼少期の性的トラウマが原因であると判明する。原因の解明によりサビーナが快方へ向かった2年後。ユングはウィーンでフロイトヴィゴ・モーテンセン)と会い、二人の議論は大いに盛り上がるが、相容れない部分もあった。同時に、ユングはザビーナに惹かれるようになり、二人は医師と患者の関係を越えることとなる。

感想

フロイト曰く、「神秘主義はダメだよ。科学の枠内でやらなきゃ」とのことである。それに対して、ユング曰く、「勝手に線引するなよ」と。三十郎氏に言わせれば、両者の言い分は、共に正しく、共に間違っている。

科学的であることを志向するのは正しい。そうでなければ怪しい占い師と変わらない。しかし、フロイトは自身の精神分析を「科学」であると主張しているものの、三十郎氏の理解するところの「科学」とは異なっている。反証可能性のないものは全てオカルトである。現代ならば患者の抱える問題と夢の内容を統計処理して一応の相関(≠因果)くらいは導けるのだろうが、当時は「これはペニス!」「あれもペニス!」と好き勝手に言っていただけのようにしか思えない。そんなもん何とでも言えるではないか。ちょうど三十郎氏が映画を観ては自分に都合よく解釈を重ねているのと同じである。したがって、「科学」を自称するフロイトが科学的だとは思えないため、ユングの「俺だけオカルト扱いするな」という主張にも一理あることになる。

何でも性衝動に結びつけたがる欲求不満男の理論は眉唾ものに思えるが、劇中でユングが「彼は説得力がありすぎる」と話しているように、多くの人々を納得させてしまったのだろう。これが困った事態を引き起こしている。三十郎氏は上述の理由でフロイト心理学を信用していない。しかし、その一方で映画をはじめとする芸術の分野では所与のものとして扱われており、その分野の知識がないと“読み解けない”作品が多すぎるのである。フロイトユングが間違っているとしても、映画の表現はそれらを前提している。心理学的な背景とせめぎ合いを理解できなければ、本作も医者と患者のイケナイ関係に毛が生えた程度の話になってしまう。

これは大いなるジレンマである。勉強しておけば理解を助けてくれるが、疑似科学に真面目に向き合うのも気が引ける。信用ならないものを勉強することが朱に交わる行為になったら嫌ではないか。確かに現在の科学の方法論だって万能ではないだろう。しかし、民主主義が万能ではないからと言って独裁者に委ねるよりはマシである。

ザビーナは幼い頃に父から折檻を受け、自分が性的に興奮していることに気付く。以来、折檻を受けるために奇行を繰り返すようになり、叩かれることへの期待だけでハァハァするような状態になっている。SMの世界ならばこれ以上ない調教の成果である。そんなド変態のサビーナがユングと“お尻ペンペンプレイ”に興じる光景こそが本作のハイライトであり(しかもニ度も!)、これだけもファンにとっては一見の価値がある一作となっている。

また、元から受け口気味のキーラ・ナイトレイが顎を突き出して喋る姿は精神薄弱者そのものであり、見事なまでに狂っていた。“治癒後”の姿にも“普通ではない”感じが存分に出ていて、本来は非常に美しい彼女だからこそ可能な表情や仕草の破綻が、ザビーナの美しさと狂気に狭間にある危うい魅力をほとばしらせている。

危険なメソッド(字幕版)

危険なメソッド(字幕版)

  • 発売日: 2017/06/23
  • メディア: Prime Video