オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『黄金州の殺人鬼 凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』ミシェル・マクナマラ

I'll Be Gone in the Dark: One Woman's Obsessive Search for the Golden State Killer/Michelle McNamara

概要

1970~80年代にカリフォルニア州で起きた連続強姦殺人事件。

感想

12人以上の殺人、50人以上の強姦、そして100件以上の強盗を働きながら、30年以上も未解決となっていた事件を追うノンフィクション作品。「読み始めたからには結末を知りたい」という義務感だけで読み切った程度にはイマイチだった。期間の長さと犯行件数の多さから、本書執筆に当たっての著者の苦労は相当なものだったろうと容易に推測できる。その努力自体は大変に凄いことだと思うのだが、出版後に逮捕された犯人を「追いつめた」とまでは言えない点に物足りなさを感じた。

著者の捜査の成果である個々の事件についての詳述が中心となっているのだが、日本語訳がお世辞にも読みやすいもとのは言えないため、なかなか話が頭に入ってこなかった。そのせいもあるし、事件の間の繋がりを感じにくいこともあって、“物凄い事件”なのだという印象を受け取ることができず、著者が病的なまでの執念を燃やす程に“魅力的な事件”だとどうしても思えない。犯罪オタクがボルテージを上げているだけに思えてしまい、どうもついていけない。

ギリアン・フリンが寄せた序文には「どうせクソ男でしかない犯人なんかよりも、ミシェルのことをもっと知りたい」と書いてあるのだが、三十郎氏は「いやいや、著者の自分語りを読まされるよりも、シリアルキラーの闇を知りたい」と思った。ところが、読み進めていく内に“闇”という程の猟奇性のない事件であることが分かってきて、「これは確かに犯人に興味が湧かないかも……」となってきた。

つまり、事件の“内容”ではなく、“期間”と“件数”こそが黄金州の殺人鬼の特異性なのである。しかれば、事件についての詳細を知ったところで大して面白くないのは当然であり、「犯人を見つけられるのか」という点に自然と注目が集まる。果たして著者が存命で、全てを書き上げていればどうだったのかは知る由もないが、本書がその役割と果たすことも、真相まであと一歩というところまで迫ることもなかった。

本書の出版後に犯人は逮捕されていて、今年の8月に終身刑を言い渡されている。著者の執念が実を結んだと言いたいところではあるものの、著者自身が生前に記した犯人への手紙に「この勝負はあなたの勝ちだ」とあるのだから、彼女が犯人を特定できていなかったことは明らかである。エピローグを書いた夫パットン・オズワルト(俳優。名前は知らなかったが、顔を見れば分かる程度には有名)たちは「これがあなたにお似合いの結末」という言葉を引用して勝利宣言しているものの、著者自身も「自分が勝った」とは思っていなかっただろう。

被害者たちに“短小”であることを証言された犯人のディアンジェロ。女性の手を背中の側で縛り、その手を使って自慰行為する“手姦”趣味の持ち主である。この性癖と「ディッシュ・トリック」と呼ばれる警報システムは面白かったが、それ以外には“レイプ犯の割には慎重かつ狡猾”という程度の男だったので、“シリアルキラーの物語”を期待するとハズレである。