オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ドローン・オブ・ウォー』

Good Kill, 102min

監督:アンドリュー・ニコル 出演:イーサン・ホークブルース・グリーンウッド

★★★

概要

無人攻撃機の操縦士が病む話。

短評

SF映画を専門とするアンドリュー・ニコルが描くSFの世界みたいな現代の戦争の話。“あまりにも安全な戦場”から淡々と標的を殺害していく光景にはディストピア感があり、その歪みに主人公が耐えきれなくなる展開を含めて、まるでSF映画を見ているようだった。しかし、冒頭に「事実に基づいている」の一文が入っている通りに、これは実際に起きていることである。テクノロジーが人間に影響を与えるというSFのような話が、現実に存在しているのである。

あらすじ

アフガニスタン戦争開戦以降、急激に数を増やした無人攻撃機──ドローン。かつては実機のパイロットだったトーマス(イーサン・ホーク)は、ドローンの操縦士として日々標的を撃破していたが、拭いきれない違和感を抱いていた。自分の身を危険に晒すこともなく、仕事が終わって家に帰れば美しい妻モリージャニュアリー・ジョーンズ)や可愛い子供たちが待っている。一見すると理想的な環境の職場なのに、彼はその生活に満足できず、実機搭乗への復帰を望んでいた。

感想

トーマスの“職場”はラスベガスの外れにある。アメリカ本国の欲望渦巻く魔都から少し離れただけの場所にいながら、遥か遠くのアフガニスタンにいる人間を殺している。空調の効いた部屋で、モニターを見て、コントローラーを操作し、まるでTVゲームのように人を殺していく。戦場に行った多くの兵士がPTSDを患うことはよく知られているが、「帰り道の運転の方が危険」という安全そのものの任務に就くトーマスもまた心を病んでいく。

第一義的には、トーマスの「恐怖が懐かしい」という言葉の通りに、攻撃が“一方的な殺戮”であることが原因だろう。人の命を奪う際に、自分もまた命を懸ける“公平さ”がなければ、自分が「臆病者になった気分」になるのだと。「国と国民を守る」という目的があり、別に死にたいわけでもないのに、“正しくないこと”をしているような感覚に陥ってしまう。

一方的な攻撃と言えば、通常戦闘機による空爆やミサイル攻撃なども同じ性格を有していそうである(湾岸戦争スカッドミサイルが発射される映像のイメージが強い)。ベテランパイロットのトーマスには空爆の経験もありそうなものだが、それらとの差異がドローン攻撃の特異性を浮き上がらせる。ドローンでの攻撃は、自分は完全に安全な環境にいて、明確に標的を認識して行われる。それに対して、戦闘機には撃墜される可能性があり、ミサイル攻撃は敵の顔が見えない。前者は自分の行為を“卑怯”だと感じさせ、後者はその認識をより強く植え付ける。

そこで問題となるのが、第二義的な原因──非戦闘員への攻撃である。ヘルファイアの発射後に民間人が近付いてきて巻き添えにしてしまったり、CIAの作戦に従事させられてテロリストとは無関係に思える標的をも殺させられる。ドローン攻撃では、これらの“民間人”の顔が見えてしまうのである。CIAの件は主人公の心を疲弊させるための設定に思えなくもないが、ドローン攻撃はあまりにも“お手軽”なので、「簡単に危険を排除できるなら一応やっておこう」という意識が生まれても不思議ではない。

トーマスが実機を飛ばしていたパイロットという設定はどう解するべきだろう。戦場を知り、人を殺したことのある男でも、ドローン攻撃の異常性に耐えきれなかったのか。それとも、“実戦”を知っているからこそギャップに戸惑ったのか。比較対象として相棒のスアレスがいて、彼女もCIAの作戦に異議を唱えているが、それ以外の“ゲーセンでスカウト”された者たちは、どのような傾向を示しているのだろうか。

「戦地にいる間に妻が浮気することを心配しなくてもいい」という言葉とは裏腹に、病んだトーマスは妻の浮気を疑い、妻の心もトーマスから離れていく。皮肉な話である。“残業”で子供の迎えに行けなくなったトーマスに対し、「約束したのに」とプンスカな妻。あまりにも“普通”の光景が、まるで戦争とは無関係な生活をしているように感じさせるのに、実際には毎日“死”に接しているという奇妙さである。この状況を受け入れて消化するのは、酷く難しいだろう。その難しさが周囲には伝わらないという点も含めて。

トーマスが最後に独断で殺害した男は、夫が戦地に行って残された女を襲うレイピストなのか。それとも過激なDV男なのか。いずれにせよ酷い男ではあるのだが、そのどちらだったとしても一方的な断罪であることに違いはない。トーマスが自らの正義感に基づいて、CIAと同じ“お手軽”な殺戮に手を染めた瞬間である。これは“Good Kill”ではないだろう。彼が唯一“いいこと”をしたのは、見張りだけで人を殺さずに済んだ時なのである。

ジョンズ中佐役のブルース・グリーンウッドサム・ニールに似ていると思う。てっきりニールなのだと勘違いしていた。

ドローン・オブ・ウォー(字幕版)

ドローン・オブ・ウォー(字幕版)

  • 発売日: 2017/07/21
  • メディア: Prime Video