オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『T2 トレインスポッティング』

T2 Trainspotting, 117min

監督:ダニー・ボイル 出演:ユアン・マクレガーユエン・ブレムナー

★★★★

概要

ジャンキーたちの20年後。

短評

前作の20年後を描いた待望の続編。青春映画の伝説的傑作だった前作と比べれば一枚落ちると言わざるを得ないものの、流れた月日を考えれば“楽しさ”が失われるのは当然のことなのである。劇場公開時には、前作にあった魅力が一部消えてしまった気がして、楽しさが七割に残念さが三割という印象だったが、年齢を重ねるにつれて、彼らの取り返しのつかない“どうしようもなさ”に自分を重ねられるようになってきた。前作では物語の背景でしかなかった現実が、20年の時を経て残酷にも突き刺さってくる。やっぱり面白い。時間を開けてまた観れば、きっと再び評価を高めることになるのだろう。本作が面白く感じられる程に、三十郎氏には虚しさがつきまとうのが皮肉だが。

あらすじ

アムステルダムでの逃亡生活中に心臓発作と離婚を経験し、故郷エディンバラへと戻ってきたレントンユアン・マクレガー)。20年の刑期に耐え切れず、脱獄を目論むベグビー(ロバート・カーライル)。一人エディンバラでジャンキー生活を続け、妻子に逃げられたスパッド(ユエン・ブレムナー)。そして、相続した場末のパブを経営しつつ、移民の娼婦ベロニカアンジェラ・ネディヤルコーヴァ)と共に脅迫稼業に励むサイモン(ジョニー・リー・ミラー)。四人の人生が、20年ぶりに再び交わる。

感想

あらゆる意味で、“戻ってくる”話である。レントンが故郷へと戻り、(一人を除く)かつての親友たちの間に友情が戻る。20年の間にあらゆるものが変化し、それらは不可逆のはずなのに、根本的な部分で“元通り”となる。元通りとなった生活は、決してかつての“クソでも楽しい日々”ではない。実に虚しいリユニオンなのだ。考えてみれば、前作から“戻ってくる”話だった。ロンドンで成功を掴みかけたレントンは悪友に引っ張られ、トミーの死もあって故郷に戻る。切っ掛けには違いがあるにせよ、上手くいっていた生活が破綻した時に頭に浮かぶのが故郷という点は本作も同じである。そして吸い寄せられるように戻ってくる。そこに逃れられない何かを感じずにはいられない。

ベグビーの息子が大学に進んでいるように、“次の世代”は新しい世界に適応しつつある。その一方で、学歴や職歴といった“然るべき経験”を積めなかった者たちは、世界から置き去りにされている。スパッドはジャンキーのまま(おっかなびっくりの表情もそのまま)、サイモンは犯罪者、上手くやっていたレントンですらも熾烈化を続ける競争から脱落し、結局は“元通り”の居場所しかなくなっている。再び得られたチャンスが裏切りによって再び消失するラストは、国の経済が成長しようと限られたパイを奪い合う競争相手が増えただけの現実を反映していると言えるだろう。ベロニカや空港のスロベニア人といった移民の存在がそれを象徴している(と言っても、スコットランドBrexit反対が多数派だったはず)。

日本だと氷河期が分かりやすい例かと思うが、そうでなくとも、40代の人間が人生をやり直そうとしても上手く行かないことは想像に難くない。20年に前には、無限にあるはずの選択肢が社会に奪われた。そして、時が流れると、社会にはあるはずの選択肢の対象から自分が外れている。初期の失敗が経路依存的に人生に影響を与え続ける。かくして「人生を選べ」の逆説性がまるで呪いのように彼らに襲いかかり、残酷にも“元通り”となる。この結末には救いの無さを覚えずにいられないが、こんなダメ息子でも暖かく迎え入れてくれる父がいたことだけは救いと受け取ってもよいのだろうか。

クソだろうと、どん底だろうと、勢いで乗り切れた若い頃とは異なり、歳を取ると明確にクソとして認識されるようになる。クソから逃げ切れなくなる。「歳を取るのはクソ」なるシック・ボーイ・メソッドを、皮肉にも彼ら自身が体験し、観客に突きつけてくる。それは音楽の使い方にも現れている。何かが上手くいっている時──“栄光の過去”を思い出す瞬間には(ベロニカ曰く「過去に生きてる」行為であろうと)前作同様に音楽が勢いを与えてくれるが(ジョージ・ベストについて熱く語らっている時に『ロシアより愛をこめて』の曲が流れる。故ショーン・コネリーのボンドを愛し、貶したサイモンは、コネリーよりも逞しい胸毛が印象的だった。頭の方も似てきているが、御大だって若い頃からカツラだったし、誇りに思うべき)、それ以外のシーンではピタリと止まる。これが前作のようなテンポを欠く原因となっているものの、彼らの現状を加味すれば納得のいく演出なのだと気付いた。

冒頭の『Shotgun Mouthwash』は良い選曲だったと思うが、やはり前作の『Lust for Life』や『Born Slippy』に比べるとキラーチューンが不足している。懐メロが多く、音楽で時代を切り取ることには失敗していた印象である。「Dreamin' is free.」という歌詞は皮肉が効いていた。

スパッドが『レイジング・ブル』をした後に前作冒頭の通りが出てきたり、トミーの弔いで“あの山”にいった後にまたしても“健全な選択”が再開されたりと、同窓会映画に不可欠なセルフオマージュにはニヤリとさせられた。(いつになるのか、そして、どういう状態になればそう言えるのか分からないが)コロナ禍が明けたら行きたい土地のトップにエディンバラが躍り出ている。

カトリックは全滅!」に大盛り上がりするプロテスタント集団のエピソードが好きなのだが、レントンたちはどちらなのだろう。彼らが信奉するヒブスことハイバーニアンFCカトリック系らしいが、信じているのはクラブだけだろう。

スコットランド訛りのアクセントが前作から変化しているように感じた。前作はアメリカの観客向けに訛りをマイルドにしたという話もあるので(それでも強烈だが)、本作の方が本来のスコットランド訛りなのだろうか。

昔、原作を買って読んだ記憶があるのだが、いくつかの設定やエピソードを踏襲しつつも、“そのまま”の原作というわけではなかったと思う。これを機会に比較してみようと気になったのだが、どこにいっただろう。レントンとベグビーの関係は、果たしてこれほどまでに愛憎入り乱れていただろうか。捨てた記憶はないので、今も実家のどこかに眠っているのではないかと思う。

T2 トレインスポッティング (字幕版)

T2 トレインスポッティング (字幕版)

  • 発売日: 2017/08/09
  • メディア: Prime Video
 
トレインスポッティング ポルノ

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