オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『トレインスポッティング』

Trainspotting, 93min

監督:ダニー・ボイル 出演:ユアン・マクレガーユエン・ブレムナー

★★★★★

概要

スコットランドのジャンキーの生活。

短評

青春映画の金字塔である。本作に出てくるのはどうしようもなくダメな奴らばかりなのだが、どうしようもなく格好いい。三十郎氏は中学生の頃に本作と出会い、以来、数千に及ぶ映画を観てもなお、“最も格好いい映画”の椅子に座り続けけている。『SW EP1』でスクリーンに魅入られ、『トレインスポッティング』で思春期を過ごし、『タクシードライバー』で人格形成された──これが映画ファンとしての三十郎氏の略歴であり、映画を観る際の“基準”でありかつ“最高到達点”として君臨している三作品である。何十回観ても未だに飽きることがなく、どのシーンを切り取っても魅力的。レントンたちの“どうしようもなさ”や、その背景を理解をしてもなお、彼らへの憧れが変わることはない。

あらすじ

90年代のスコットランドエディンバラ。ヘロイン中毒のレントンユアン・マクレガー)は、同じくジャンキーのシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)やスパッド(ユエン・ブレムナー)、ケンカ中毒のベグビー(ロバート・カーライル)、健康なトミーらとつるんで、薬漬けの日々を過ごしていた。レントンは不意に薬断ちを思い付くのだが……。

感想

いわゆる“エピソード羅列型”の作品であり、ストーリーが特別に面白いというわけではない。しかし、そのエピソードのいずれもが印象的という奇跡の一作である。このタイプの映画には「このエピソードが好き」という“お気に入り”があるものだが、本作については「全部がお気に入り」としか言い様がない。冒頭の『Lust for Life』に乗せたモノローグはほとんど暗唱できるし、チョコレート製の“スコットランドで最悪のトイレ”に何度笑わせてもらったか分からない。こうして好きなシーンを挙げていけば、映画を最初から最後まで逐一説明していくことになる。この面白さがどれだけ凄いことなのかは、同じエピソード羅列型の作品で本作と並び立つものに出会えないことが、良いのか悪いか証明している。どのシーンも実際に観ずとも頭に思い描けるが、やはり観ると楽しい。

それでも挙げざるを得ないのが、レントンがトミーから拝借する“highly personal”なビデオ『TOMMY + LIZZY VOL.1』だろう。「何やってんだ、俺たち……」みたいな死んだ表情でシック・ボーイと並んで座り、無言でビデオを眺めている場面は、学生時代の桃色動画鑑賞会を彷彿とさせる。昔はダイアン(ケリー・マクドナルド)の凛々しくも可愛らしい顔立ちや引き締まった体が魅力的だと思っていたのだが、最近はリジー(ポーリーン・リンチ)の肝っ玉母ちゃんになりそうな安定感のある顔やプニッと柔らかそうな体に惹かれるようになってきた。なお、プライムビデオの配信版ではレントン股間にボカシがかかっていたが、バージョンによってはユアン・マクレガーの陰茎が見られたはず。

ノローグ・ポップミュージック・小気味よい編集の三つの組み合わせが非常に高い相乗効果を発揮しており、各エピソードの面白さを引き立てている。イギー・ポップルー・リードアンダーワールドらをはじめとする楽曲のほとんどは“今でも十分に聞ける”と思うのだが、レントンがロンドンで就職した時に流れる『Think About the Way』だけは、観光ビデオ的な映像の効果もあってダサいと思わざるを得ない。地元に逼塞していた生活からの変化を象徴する“最新の音楽”のはずなのだが、当時は格好よかったのだろうか。

LEEのスキニージーンズ、コンバースアディダスのスニーカーといったファッションにも影響を受けた。そのせいなのか、昨今若者の間で流行っているらしいビッグシルエットはどうも受け付けない(流行を追うような年齢でなくてよかった。かと言ってスキニーも恥ずかしいが)。学生時代には茶髪の坊主という短期間しかもたないレントンの髪型を真似したが、現在、それとは違う理由で再度坊主頭になっている。割と快適なのでこのまま坊主頭でいいやと思っているのだが、躊躇なく丸刈りに踏み切れたのは、レントンへの憧れから一度坊主頭を経験していたというのも大きいだろう。

何の価値もないのにイングランドに占領されてしまったスコットランドの若者たちがヘロインぐらいしかやる事がない一方で(このピクニックのシーンで「shite」という単語を覚えた)、ロンドンはレントンでも成功できるくらいには好景気に沸いている。グローバル経済の拠点となった中央の繁栄と切り捨てられた地方の疲弊との対比が、サッチャリズムの副作用を端的に示している(この流れはイギリスに限ったことではなく、ネオリベの政策こそがトランプ大統領を誕生させたことから目を背けるべきではないだろう)。「人生を選べ」に続いて無限の選択肢が羅列されるが、その実、レントンには何も選択肢がないという逆説的な状況なのである。本作はレントンが地元や仲間(=地方)を裏切る(=見切りをつける)ことで“無限の選択肢”という“普通の人生”へのチャンスを掴む鮮やかなラストとなっているが、選択肢不在の不可避性が、20年後の続編で回収されることになる。

トレインスポッティング(字幕版)

トレインスポッティング(字幕版)

  • 発売日: 2015/11/15
  • メディア: Prime Video
 
Ost: Trainspotting

Ost: Trainspotting