オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『怪奇小説集』遠藤周作

概要

全15篇の怪談集。

感想

著者の遠藤周作が自ら体験したり調査に出向いた話に加えて、週刊誌連載中に読者から寄せられた話などの全15篇が収められた短編怪談集。「怪談」と言えば「怖い話」であり、心霊現象やオカルトな要素が付き物なのだが、意外にも現実的なオチのついた“笑える小話”が多いのが特徴的だった。流石の文章力で不気味な思いをさせておきながら、いざ真相が分かってみると“ほんわか”となる──と思わせておいて、中には背筋がゾワッとするような話があったり、人の心の闇が見え隠れしたりと、バラエティに富んだ構成となっていた。

読み進めている内に気がついたのだが、三十郎氏は以前に本書を読んだことがあった。悲しいかな己が鳥頭は読んだことを忘却していたものの、「あれっ、この話は知っているぞ」と思い出すことくらいはできるのである。裏を返せば、内容を覚えていた話こそが深く脳裏に刻まれていたのであり、つまり、面白い話だったということになるのではなかろうか。

「これは絶対に読んだことがあるぞ」と確信したのは、遅まきながら10篇目の『ジプシーの呪』である。とある船乗りの男が、マルセイユで美しいジプシーの女と出会って関係を持つ。「結婚して」とせがむ女に「いいよいいよ(どうせ逃げればいいだけだし)」と承諾し、ジプシーの儀式的な婚礼が執り行われる。「裏切ればどうなるか……」と言われて、見事に裏切る話である。ジプシーの得体の知れなさが呪術的要素にリアリティを与えると同時に、発現した呪いの内容が実に生々しく、文章だけで思わず顔を歪めてしまった。たとえ本書を読んだことを忘れていても、この気持ち悪さだけは忘れられなかったのだろう。

怪談としてシンプルに怖かったのは、著者が謎めいた青年とタクシーに同乗する『蜘蛛』や、写真を撮ると自分の顔にアザが現れる中古カメラの登場する『黒痣』あたりだろうか。旧軍時代の古参兵と初年兵が終戦後に偶然出会う『初年兵』などはオチの予想が簡単にでき、「ビビってた人が阿呆みたい」と笑わせてくれる一方で、上述の二作は不気味な読後感を残した。

“怪談的”とは異なる意味で怖い作品もある。二人の女性が“母親”よりも“女”であることを選ぶ『あなたの妻も』は、特に日本人のエピソードの赤ん坊の殺し方がえげつない。また、『霧の中の声』は、ありふれた人間の深層心理が予言を自己成就させる話なのだが、その平凡さがなんとも言い難いイヤアな(こういう片仮名の使い方が好きだった)気持ちにさせる。著者もその存在を信じていないという幽霊が出てこずとも、人間の心を抉れば、潜んでいた怪奇なるものが飛び出してくる。

怪奇小説集 (講談社文庫)

怪奇小説集 (講談社文庫)