オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『女は冷たい嘘をつく』

미씽: 사라진 여자(Missing: Missing Woman), 97min

監督:イ・オニ 出演:オム・ジウォン、コン・ヒョジン

★★★

概要

子供とベビーシッターが失踪する話。

短評

冷たい嘘』の配信が遅れていた時に見つけた韓国映画。終盤の火曜サスペンス劇場的なお涙頂戴に興醒めした部分はあったものの、誘拐犯の過去が明らかになるにつれて犯行の印象が二転三転するところが面白く、最後まで中弛みせずに楽しめた。“母親”という存在を描くと、どうしても“いい話”にまとめてしまいがちなので、過程をすっ飛ばしてオチが予想できてしまうのは弱点だったか(その点、『母なる証明』は凄かった)。

あらすじ

夫との離婚調停で一人娘ダウンを奪われそうになっているジソン(オム・ジウォン)。彼女は仕事に忙殺される日々を送り、子育てはベビーシッターのハンメ(コン・ヒョジン)に任せっきりとなっていた。ある日、ジソンが帰宅すると、ハンメとダウンがどこにも見当たらない。我が子を見つけようと奔走するジソンは、やがてハンメの正体と壮絶な過去を知ることとなる。

感想

ハンメが“ハンメじゃない”と判明し、次第に彼女の過去が明らかとなっていく。シッターになる前は風俗店で働いていたこと、娘がいて肝臓の病気を患っていること、夫と義母から酷い扱いを受けたこと。身代金の要求(振り込め詐欺)で幕を開けた事件が、その過去と共に次々と見え方を変化させていく。

肝臓病の話が出てきた時には、ダウンの臓器が狙われてるのかと思わされる。ハンメ(本名キム・ヨン)の娘が既に命を落としていると判明し、その死の責任の一端がジソンと彼女の元夫にあるとなれば、復讐譚という性格を帯びる。いずれにしてもスリリングである。それでも最後には……という辺りが“母親”の物語となるわけだが、これを感動的と受け取るか、テンプレ通りと受け取るのかは、二人の母親への感情移入の度合いに依るのだろう。三十郎氏は後者だった。何か“一捻り”がないと、やはり印象が薄れる。

ジソンは元夫と義母にダウンを取られそうになっている。日本だと母親に親権が認められるケースが多いように思うものの、韓国における儒教文化の強さが影響しているのだろうか。「うちの子よ!」とばかりに母から娘を奪い去ろうとする義母(元夫は「母さんが言うから」という態度)の姿に家制度の醜さが現れているものの、ハンメの義母に比べればマシなのであった。新生児肝炎であることが判明すると、「たかが娘。また産めばいい」と満足な治療を受けさせてくれないのである。これは酷い。家父長制滅びるべし。

中国から外国人妻として韓国にやって来たハンメが直面する困難は、はっきり言って三十郎氏の想像の範疇を超えている。あまりに酷い仕打ちなので、“物語的”だと感じられるところすらあった。一方で、そのハンメの苦労を知って同情する“被害者”ジソンの生活がこれまた大変で、世のシングルマザーやワーキングマザーの苦労が偲ばれる。ジソンの“雑な仕事”とハンメの“誘拐”が、同じく“追い込まれた母親の行動”として重ねられる仕掛けは面白かった。

社長の「これだから子持ちは……」という発言は、これ以上ない本音なのだろうが、それを言ってはお終いだろう。もっとも、“配慮”によって割を食う人がいるのも現実なので、制度だけを整えても感情面のしこりを解決できないのがこの問題の難しさか。

最後にダウンがジソンの方に来てくれなかったらどうしようかと思った。乳母という文化は古今東西に広く存在すると思うが、子が母よりも強い愛着を抱く例はないのだろうか。乳母やシッターを雇えるような社会階層であれば、成長すれば自分の家に帰属意識を持った方が有利であることを理解できるので問題ないのか。ジソンがフェリーでハンメたちを発見した時の“窓を一枚隔てた”という状況が、心理的な距離や壁を隠喩しているため、これをもう少し上手く使ってみてもよかったのではないかと思う。

女は冷たい嘘をつく(字幕版)

女は冷たい嘘をつく(字幕版)

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