オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』

Smetto quando voglio(I Can Quit Whenever I Want), 105min

監督:シドニー・シビリア 出演:エドアルド・レオ、ヴァレリア・ソラリーノ

★★★

概要

不遇なポスドクたちが脱法ドラッグを製造・販売する話。

短評

『いつだってやめられる』三部作の第一作。割とシャレにならないポスドク問題をカラッとした陽気な笑いに変えてしまう辺りが、なんともイタリアらしいクライム・コメディだった。ナンバリングされていないので分かりづらいが、『7人の危ない教授たち』→『10人の怒れる教授たち』→『闘う名誉教授たち』の順である。科学の知識を利用してドラッグを製造する設定がドラマ『ブレイキング・バッド』と似ているらしいが、とっくに乗り遅れた話題作を5シーズンも見る気が湧かないために未見である。教授になれなかった男たちの話なのに、邦題に「教授」の文字を入れたのは皮肉なのだろうか。

あらすじ

頼みの綱だった研究費の申請が通らず、大学との契約を打ち切られてしまった37才のポスドク神経生物学者ピエトロ。恋人ジュリア(ヴァレリア・ソラリーノ)に事実を打ち明けられず追い込まれた彼が思い付いた起死回生の策とは、違法指定されていない分子構造を持つ“合法ドラッグ”を開発すること。自分と同じく不遇な状況に甘んじているポスドク仲間たちを集めて始めたビジネスは、大成功を収めることになる。

感想

“研究員ギャング”のメンバーは、いずれも各分野の優秀な研究者である。優秀なはずの彼らが、ガソリンスタンドで働いていたり、中華料理屋で皿洗いしていたり、ロマ女(Majlinda Agaj)のヒモになっていたりする。アンドレアが“中卒を自称”して就活している辺りからも、いかに才能を空費しているのかが分かる。博士号取得者の“自殺+行方不明率”を考えれば、彼らは逞しく活きているものの、なんとも“もったいない”状況である。

三十郎氏は修士ですらひぃひぃ言っていたため、博士後期に進むことなど考えられなかった。博士号の取得は大変なのである。きっと彼らは幼い頃からとても賢く、研究室でも周囲より優秀だったはずなのに、いざ努力して博士号を取ると、大学を楽して去っていった同期たちよりも遥かに待遇が悪い(ピエトロの研究員として月給が500ユーロで、アルベルトがウェイターに昇格すると700ユーロ+チップとのことだったが、これで生活できるのか?)。なんと報われないことか。「金のことを考えずに好きなことを続けた結果」と切り捨てる人もいるだろうが、「自分には才能があるはずなのに……」という自負が、不遇な状況をより惨めに感じさせる。もっとも、そんな惨めさを笑い飛ばしてしまうのが本作のイタリア映画らしさなので、じめっとしたシーンはどこにもない。

さて、その“行き場を失った才能”の活路が合法ドラッグ事業──原価が安くて販売価格の高い高利益率商品なのである。経済学者ボネッリが(ロマ女からの)資金調達とビジネスモデルの構築を担当し、神経生物学者ピエトロが考案した分子構成のドラッグを、計算化学者アルベルトが市販商品と大学研究室の備品を使って調合。考古学の非常勤職員で大学のトラックを使えるアルトゥーロがブツを運び、文化人類学アンドレアが販売戦略を考え、ラテン碑銘学者ジョルジョと記号学者マッティアが売り子となる。最後の二人は才能を活かせていないままのように思うものの、彼らはピエトロの友人なのである。アルトゥーロも才能を活かしてはいないが、考古学の備品の銃を使って強盗するシーンは好きだった。特に整理用のラベルがついたままなのが良い。

才能を持っていたはずが“持たざる者”へと転落した男たちのサクセス・ストーリー。言わば、彼らは社会から切り捨てられた存在であるため、成り上がる方法が反社会的である点が痛快だった。使えるものは使ってなんぼなのである。ピエトロの恋人は民生委員として中毒者に向き合っているのに、ピエトロは中毒者を増やしていく。ここには多少の後ろめたさがあるはずだが、葛藤よりも笑いに比重を置いていて、最後までテンポを落とさないのも好印象だった。その代わりに省かれた量産化や販路拡大に伴うトラブルを乗り越える方法の描写があってもよかったかもしれない。

ドラッグ自体は合法だが、食品販売免許の不保持と脱税は違法である。せっかく合法のビジネスを始めたはずなのに、周囲に対して堂々とする場面が見られなかったのは惜しかっただろうか。「今まで通りに生活しろよ」と言いながら派手に遊んでも逮捕に繋がらない辺りはそうなのかもしれないが、合法性が話を面白くするような展開があってもよかったと思う。警察の代わりに怖いのが“その筋の人”なのだが(これは日本で同じことをする場合でも同じだろう)、その本職の人もまた博士号取得者というオチは笑えた。儲かった後の諸々を考慮せず、目的に一直線な世間知らずさは博士らしかったか。

自称“身軽なデブ”のアルベルト。彼が入れ込むロシア系娼婦パプリカ(Caterina Shulha)が美人だったのでメモ。