オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『東南アジア四次元日記』宮田珠己

概要

10年ほど働いた会社を辞めた人が東南アジアを旅する話。

感想

この本を読んで旅に出たくなったわけではなく、旅に出たいからこの本を読んだ。当ブログのタイトル『オーガナザイズド』の下に、小さな文字で「三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい」と書いてあるのがお分かりいただけるだろうか。カメラについても語っていないという点はさておき、三十郎氏は旅に出て、旅について語りたいのである。たまに映画の感想で「ここに行ったことがある」と写真を貼るのはそのためである。映画を観るより他に何の楽しみも持たぬおっさんという自己認識を払拭したいところだが、時世がそれを許さない。Go To トラベルなる政府の愚策に乗っかるつもりは毛頭ないし、そもそも国内旅行にはあまり興味がない。だからこうして他人の旅記を読み、自分を慰めるのである。

著者は10年ほど働いた会社(=リクルート)を辞し、予算40万円でベトナムからシンガポールへと東南アジアを周遊する旅に出る。有名な観光地についての記述はアンコール・ワット(というよりもアンコール・トム)くらいのもので、ひたすら“珍スポット”を訪ねては、その様子を面白おかしく綴ったエッセイである。ギャグが古すぎてピンとこなかったり(本書は1997年発刊)、無理に面白おかしくしようとして文章が冗長になっている箇所がありはしたが(これは三十郎氏も気をつけたい)、自分の時代や方向性とは異なる旅の様子を楽しんで読めた。

“面白おかしい”語り口が本書の魅力ではあるものの、気になる点もある。この“面白おかしい”というのが厄介なもので、楽しいことには楽しいのだが、そこには他国の文化や風習への潜在的な敬意の欠如が現れている気がしてならない。正確な経緯を調べずして「これは“珍”である」と決めつける行為は、少なくとも現代の価値観からすると危険ではなかろうか。

へんてこな場所ばかりを巡っているため、「ここを目的に旅に出たい」と思うような箇所はほとんどもない。どれも話の種になるのかすら微妙なレベルである。ただし、ベトナムを訪れるのは“雨季”がよいという点だけは参考になりそうだった。詳細な理由は割愛するが、アオザイの関係である。

珍スポットの魅力を文字で紹介するのは非常に難しい。著者もなんとか妄想的学説を巡らせて盛り上げてはいるものの、印象的なエピソードの大半は出会った人々に関するものだった。ここで「旅の最大の楽しみは人との出会い」としてしまうのは短絡的である。それは単に“伝わりやすい”だけだと三十郎氏は思っている。やはり“現地にいる感覚”というものは、実際に自分がそこにいなければ分からない。ああ、どこかに行きたいなあ……。

ミャンマーで“計画的に”オーバーステイする場面があるのだが、よく調べもせずに(ガイドに「一日当たり3ドルの罰金で済む」と聞いただけ)現地の法律を犯す度胸は三十郎氏にはない。しかし、こうした“テキトーさ”が招くトラブルこそが読者を楽しませるのだろう。

東南アジア四次元日記

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