オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『さよなら、アドルフ』

Lore, 108min

監督:ケイト・ショートランド 出演:サスキア・ローゼンダール、カイ・マリーナ

★★★

概要

親衛隊高官の娘が敗戦後に祖母の家を目指して旅する話。

短評

ナチスの“娘”を主人公に据えた豪独英の合作映画。いつも“敵”を演じさせられてばかりのナチスが苦労する話は目新しい気がするものの、“敗戦国の悲哀”的なモチーフは、同じく敗戦国の日本人にとって珍しいものとは言えない。しかし、母国の犯した“罪”に子供たちが向き合う視点は新鮮だったように思う。三十郎氏はあまり邦画を観ないのだが、有名作品における“市民”の描き方が“被害者”に偏っているように感じている。本作にも「ホロコーストなんて米兵の捏造」と発言する者が登場するが、似たようなことを言う日本人が未だに跋扈しているし、余所事ではない“罪”がどのように受容されているのかを考えさせられる一作だった。

あらすじ

敗戦が迫り、一家で田舎へと夜逃げしたローレ(サスキア・ローゼンタール)たち。しかし、間もなくしてヒトラーが死に、親衛隊の高官だった父は連合国軍に連行され、母(ウルシーナ・ラルディ)も子供たちを残して去ってしまう。妹リーゼル(ネレ・トゥレープス)、双子の弟ギュンターとユルゲン、まだ乳飲み子のペーターと子供たちだけで取り残されてしまったローレは、シュヴァルツヴァルトから遠く離れた祖母の暮らすハンブルクを目指すのだが、道中で出会ったユダヤ人青年トーマスと行動を共にすることとなる。

感想

敗戦が迫っているのに暢気に「ハイル・ヒトラー」と挨拶していたローレが、旅する中でホロコーストの事実を知り、軽蔑していたユダヤ人に助けられ、「今までの人生や家族は何だったのか」「信じてきたものは全部ウソだったのか」と葛藤する話である。アイデンティティの揺らぎを描いた一作なのだが、同時に何故かローレたちを助けてくれるユダヤ人青年トーマスの正体というミステリーが物語の求心力を高めている。

旅行許可証を持たぬローレたちが米兵(?)に捕まりそうになった時に、六芒星付きの身分証を見せて「兄です」と名乗り出るトーマス。ダークヘアーの彼が、全員揃って金髪碧眼でゴリゴリのアーリア人ルックなローレたちの兄という設定に無理があると感じるものの、とりあえずそういうことになる。彼との交流がアイデンティティ問題の軸となっており、助けられ、反発し、惹かれ……といった具合に、言葉では形容し難い複雑な様相を呈している。クソだと教えられてきたユダヤ人に助けられるのは気に食わないが、実際に助けられている。果たしてこの事実をどう受け容れたものか。ローレがトーマスに股間を触らせた上で顔をピシャリと叩くシーンは「何がしたいの?」と混乱したが、彼女の方が混乱していたに違いない。

そして明らかになるトーマスの正体は、“正体不明”というもの。死人から盗んだ思しき身分証の流用である。果たして彼は何者だったのか。そして、目的は何だったのか。ローレが連れていた赤ん坊が食料調達に有利なのを利用したかっただけなのかもしれないし、何か他の理由があったのかもしれない。彼が“ユダヤ人であること”で揺るがされたアイデンティティが、“ユダヤ人ではないかもしれないこと”により再度揺さぶられるのであった。

本作が“被害者文脈”の物語であれば、「何もしてないのに親の罪を押し付けられたローレが可哀想」と同情するところだろう。しかし、夜逃げ前に自宅でホロコーストに関する資料を処分しているシーンがあり、彼女の「何も知らなかった」は無責任という性質を伴う。仮に本当に何も知らなかったとしても、父がナチス高官であるが故にいい暮らしをしており、“罪”から得られる“果実”を享受していたことは間違いない。「自分は何もしていない」という逃げ道にすがることも許されず、“両親との繋がりを断ち切る”というローレの最後の行動が印象的だった。非常に苦しい行為ではあるが、“先人の否定”は避けられぬものなのだと。こうなると、生き残った種は皆多かれ少なかれ加害性の上に成り立っているわけだが果たして。

監督のケイト・ショートランドはオーストラリア人だが、夫がドイツ系ユダヤ人なのだとか。次作『ベルリン・シンドローム』もドイツを舞台としており、ドイツと縁深い人である(果たしてこの立ち位置の影響をどう考えるべきか)。原作者レイチェル・シーファーはイギリス人とのことで、ドイツ資本も入った映画ではあるものの、やはりドイツが単独で“ナチスの娘が苦労する話”を描くのは難しいことが察せられる。

さよなら、アドルフ(字幕版)

さよなら、アドルフ(字幕版)

  • 発売日: 2014/08/08
  • メディア: Prime Video
 
暗闇のなかで

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