オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『軍中楽園』

軍中樂園(Paradise in Service), 134min

監督:ニウ・チェンザー 出演:イーサン・ルアン、レジーナ・ワン

★★★

概要

童貞の新兵が慰安所に配属される話。

短評

“愛なき愛の行為を営む場所で生まれた儚い愛の物語”とでも言うべきか。1990年代に人権侵害を理由に廃止されたという慰安所を断罪するのではなく、とある時代のとある場所で人生が重なった者たちの人間模様を、やや過剰なまでのエモーショナルさでもって描いている。それは現代の価値観からすれば決して肯定できるものではないかもしれないが、存在したことは事実であり、その歴史を経て今がある。そして、そこでしか生まれないドラマというものがある。男たちに抱かれる女たちの表情は様々だが、全てがただ“過ぎ去って”いく。

あらすじ

第二次大戦での日本の敗戦により占領統治が終わり、国民党と共産党による内戦が勃発。蒋介石率いる国民党軍は徴兵制を敷き、1969年、シャオバオことルオ・バオタイは大陸側に隣接する金門島に配属される。精鋭部隊“海龍蛙兵”に選抜されたバオタイだったが、泳げないことが発覚し、「特約茶室」と呼ばれる慰安所──“軍中楽園”へと再配属されることに。将来を約束した恋人に純潔を誓っているバオタイは、ニーニー(レジーナ・ワン)というあまり客を取らない謎めいた娼婦と出会う。

感想

台湾が本島以外に大陸に隣接する領土を持っていることを知らなかったのだが、舞台となる金門島福建省厦門(アモイ──と言っても場所は分かりづらいが、台湾から西に進んだところ。アヘン戦争南京条約絡みで名前だけは覚えている)の目と鼻の先である。したがって、そこは“最前線”と呼ぶべき場所なのだが、バオタイが配属された1969年には厳しい訓練とは裏腹に実質的な戦闘を終えていたらしく、定期的に砲撃が行われていただけなのだとか。共産党軍が攻めてくるでもなく、国民党軍が領土を奪還するでもない。それでも徴兵が解除されないという状況下で生まれたドラマである。

本作は、バオタイとニーニーの他に二組の物語を描いている。一つは、バオタイの同期で補給部隊に配属されたジョン・ホワシンと糞客から暴行を受けた娼婦シャシャの話。ホワシンは部隊の先輩にイジメられており、徴兵制に疑問を感じている。そこで、童貞を捧げたシャシャと共に大陸へ泳いで逃げようとする。軍隊にシゴキはつきものだが、ここには戦争が目的を失ったことにより行き場を失ったエネルギーの発散という側面もあるのだろう。とても空虚である。ホワシンは心からシャシャを愛して一緒に逃げようとしたわけではあるまい。自国に絶望した時に共産党プロパガンダを見て、同じく現状から逃げ出したい女がいた。彼らの行方は杳として知れないが、それは決して明るいものではない(多分溺れて死んだ)。

もう一つは、士官長ラオジャンが小悪魔な人気嬢アジャオ(チェン・イーハン)にガチ恋する話。ラオジャンは大陸出身であり、20年も母に会えずにいる。領土奪還の夢は実質的に破れており、今後も母に会える見込みはない。その空虚さを埋めるかのようにアジャオにのめり込み(借金してまで通うガチ勢)、彼女との結婚を本気で考えている。一方のアジャオは、結婚して幸せになりたいと考えているものの、ラオジャンが本気でそうしてくれるとは信じられない。僅かな金で男たちに体を弄ばれてきた彼女は自身を“卑しい女”と認識しており、たとえ相手の愛が本物であっても空虚にしか響かないのである。ホストにハマって風俗堕ちする女性を自業自得くらいに思っていたが、アジャオが宝石等の貢物を心の拠り所にしているように、必死で埋めようとしている寂しさを抱えているのかもしれない。ちなみに、洗濯物を回収にきたバオタイにアジャオが「これもお願い」と生脱ぎパンツを手渡すシーンがあり、童貞には刺激が強すぎると思った。ニーニーが上品でミステリアスなのに対し、アジャオは分かりやすく可愛いので、男はコロっといってしまうだろう。

そして、本題のバオタイとニーニーの話。純潔を誓う童貞バオタイは、ニーニーとの関係を純粋な友情としてスタートさせる。しかし、時が流れるにつれて純潔が意味を失い(=恋人からフラれる)、ニーニーが慰安所にいる理由が判明し(これが重い)、上述の二つの物語に対する後悔がバオタイにのしかかり、ニーニーの建国60周年特赦が決まり、二人の関係が変化していく。彼らの関係を愛と呼んでよいのかは分からないが、その時代のその場所で出会った──必然か偶然か運命が重なったが故に、二人は互いを必要とすることになった。埋めるべき感情的隙間が存在することで物理的隙間を埋める行為が生ずる。物理的隙間を埋めることで感情的隙間が生じたアジャオの逆である。互いを“求め合う”行為が結実しなかったのは、バオタイが彼女に二度と会えないであろうことを察していたからか。逆にニーニーは、会えないと分かっていたからこそ繋がりを求めたのだろうか。童貞ほど初体験を神聖視し、ヤレなかった後悔からどうでもいい相手で童貞を捨ててしまう。

なお、“未遂”の場面でニーニーのニップレスがバッチリ映ってしまう瞬間があったので、ここは編集なり何なりで上手く処理してほしかった。挿入直前に翻意したバオタイに置き去りにされてしまうニーニーがなんとも形容し難い複雑な表情をたたえているので、ニップレスで集中力を削ぐのはもったいない。二人が夜間に抜け出して月下美人を見に行くシーンはロマンチックだったが、蛍の演出はやり過ぎで安っぽくなっていた。

ちなみに、金門島の特約茶室の跡地が展示館として一般開放されているそうである。

軍中楽園(字幕版)

軍中楽園(字幕版)

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