オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『箪笥<たんす>』

장화, 홍련(A Tale of Two Sisters), 114min

監督:キム・ジウン 出演:イム・スジョン、ヨム・ジョンア

★★★

概要

連れ子vs継母。

短評

韓国製の“じっとり”した雰囲気のホラー映画。リメイク版の『ゲスト』を観たことがあるのでオチは分かっていたのだが、本作は説明的な描写が非常に少なく、分かっていてもなお“謎”が強い求心力を有していた。“分からなさが物語を引っ張る”という意味では本作の方が好みなのだが、逆にリメイク版がいかに“分かりやすく”再構成されていたのかという点では感心させられた。それほど怖くはなかったものの、重苦しい空気感が魅力的な、“もう一度観たくなる”一作である。

あらすじ

父と共に郊外の一軒家へと引っ越してきたスミ(イム・スジョン)とスヨンムン・グニョン)の姉妹。しかし、姉妹と継母(ヨム・ジョンア)の関係は決して思わしいものではなく、一家には重い空気が漂っていた。間もなくして、家で奇妙な出来事が起こるようになる。

感想

素朴な雰囲気で可愛い妹スヨンと、可愛いのか可愛くないのかよく分からない不思議な顔立ちの姉スミ。そして、とっても美人だがやかましい継母と、口数の少なすぎる父。リメイク版を観ていることや状況からなんとなく想像はつくものの、母が死んだことや継母の立場などは徐々に明かされていく構成である。スミと父の「箪笥を片付けて」「その話はしない約束」という重要そうな会話も意味が分からない。観客はよく分からないままに“気まずさ”や“気味の悪さ”だけを突き付けられるわけだが、少し“置いてきぼり”の状態で一家の対立を見せられるのがなんとも居心地が悪かった。

スミ以外の人物が幽霊を目撃することでミスリードしているが、結局はそれらを含めた全てが精神病のスミが生み出した幻覚だったというオチである。分かっていたはずなのに、父がスミに事実を告げるシーンは何故かゾクッとした。スヨンや継母についての描写はそれで説明がつくのだが、ソンギュ夫妻についてはどうなっているのだろう。“家の中”で起きたことは幻覚路線でいけるものの、痙攣を起こしたミヒが「何かいた」と話しているのは“帰りの車の中”である(他に妄想でない継母も遭遇している)。説明できる部分の余白──“幽霊屋敷”という要素自体は否定されていないことになるのか。

タネ明かしにより一応納得できたかに思われたが、決してスッキリするわけではない。もやもやとした、そして物悲しい、嫌な後味が残る。母の死因は“自殺”だが、これは夫が若い愛人に走ったことを悲観してのものという理解でよいのか。継母の意地悪でヒステリックなキャラクターはスミの敵意が反映されたものであるため、何を信じてよいのか今ひとつ分からない(父が「自分は悪い父親だ」とは言っていた)。スヨンは箪笥が倒れてきたところを見殺しにされたはずだが、ズタ袋をフルボッコするのは、見殺しの原因を作ったスミが継母に責任を押し付けるための妄想ということでよいのか。

“準備万端”の状態でベッドに横たわって夫を待つ継母。夫は一度ベッドに入り、交わるこなく立ち去っている。なお、この継母の“正体”はスミである。スミの精神の問題だと思っていたが、もしかして近親相姦的な要素もあったりなんかして、“父が若い愛人に走った”という以上の闇を抱えている一家だったりするのだろうか。

二度の食事のシーンがお気に入り。一度目は、引っ越してきた日の夕食で、誰もが押し黙ったまま気まずい沈黙が場を支配している。二度目は、ソンギュ夫妻を招いた夕食で、継母だけがぺちゃくちゃと思い出を喋り倒し、客人は意味を理解できずに呆然としている。その後の痙攣と併せて、「なんなの、これ……?」という不快感が強烈だった。

幽霊の描写はイマイチだったが、床の踏んだ場所から血が滲む描写は好きだった。ホラー映画における“直接”の描写というのは、永遠の課題である。カメラがぐるりと回って、継母がスミになる演出も良い。

スミが母の遺品を漁っている時に出てくるのだが、靴を筆箱にしているがオシャレだった。もっとも、ゴシックホラーの“館”と同じく、東アジアの家の少しボロくてジメッとした印象が本作で果たしている役割は大きい。欧米の家はどうにもオシャレに見えていけないのだが、これは単なるコンプレックスの表出か。

箪笥<たんす>(字幕版)

箪笥<たんす>(字幕版)

  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: Prime Video