オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『孤独の暗殺者/スナイパー』

La Résistance de l'air(Through the Air), 98min

監督:フレッド・グリヴォワ 出演:レダ・カテブ、リュディヴィーヌ・サニエ

★★★

概要

射撃競技の名手が金に困って暗殺を請け負う話。

短評

フランス製の地味なスナイパー映画。「稼げる仕事があるよ」「6時間働けば借金チャラで、いい暮らしができるよ」という甘い言葉に唆された競技射撃の名手が暗殺稼業に手を出して、ただ金を手にしただけでは終われない話である。“汚れ仕事から抜け出せない”という設定に、裏社会との関係だけでなく主人公の心理状況の変化が影響している点が面白かった。主人公は映画の雰囲気と同じく非常に地味な男なのだが、彼の妻をリュディヴィーヌ・サニエが演じている。こんな美人とよく結婚できたな。射止めるのが上手いのか。射撃の名手だけに。

あらすじ

競技射撃の名手ヴァンサンは、妻デルフィーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)と娘アレクシア(ブランシュ・アマダ・コストソ)の二人に囲まれて暮らしれていたが、新築中の家の支払いに行き詰っていた。更に脳卒中で倒れた父を引き取ることが決まった上に、当てにしていた父の部屋には所有権がなく、一文無しであることが判明する。義父に耐えかねた妻は娘を連れて別居を決め、ヴァンサンは父と二人でどん底だったが、そこに射撃クラブの新人ルノーが暗殺の話を持ち掛けてくる。

感想

大前提として一つツッコんでおきたい。妻の妹の夫は裕福な歯科医で、妻は義弟に借金を申し込もうと提案している。これに対してヴァンサンは「義弟に金の無心をするのはみっともなくてイヤだなぁ……」と却下しているのだが、そこは頼れよ。義弟が貸してくれるのかどうかはともかくとして、人を殺す前に一度頼んでみるだけの価値はあるだろう。恥を忍べよ。「自尊心>倫理観」というのはいかがなものか。「妻が妹の裕福な暮らしを羨ましがってて辛い」という心境の吐露はあるものの、流石にこの情報を知っていると暗殺の請負に飛躍を感じてしまう。

ヴァンサンの父がなかなかの厄介者である。食事中に「お前ら、ヤッてるか?」と言い出したかと思えば(娘の「魚にケチャップかけて」に対する母の「ダメ、レモンにしなさい」が流石フランスだと思った)、息子夫婦の外出中に孫を締め出して娼婦を連れ込んだりと、手の施しようのない好色爺である。彼が娘の部屋を使用しているために娘は夫婦の寝室で寝ており、ヴァンサンたちはセックスレスとなっている。デルフィーヌの色っぽさも手伝って、「これは“義父NTR”的なシチュエーションだぞ」と胸を躍らせかけたが、そんな桃色な事は起きなかった。

その代わりに、ヴァンサンが義妹(ロール・ドゥ・クレルモン=トネール)を寝取るシーンがある。初仕事を終えた彼が家に戻ると父が死んでいるのだが、「これで元通り」とはならない。母と同じく自分を見捨てて家を出た妻に対する心理的なわだかまりもあるし、“仕事”によって眠っていた暴力性が目覚めたところもある。ルノーが調子に乗らせた部分はあるものの、“競技”としての射撃が“代償”としての性格を持っているという側面もあるのだろう。だからこそヴァンサンは“最初で最後の仕事”だけで抜け出せなかったのではないか。義妹はヴァンサンの背中スリスリを二発のビンタで拒んだ後にあっさりと彼を受け入れていた。これには彼女もまたセックスレスという事情があったらしいが、デルフィーヌもまた暴力に目覚めた夫に盛っており、“野生”というものは本能を刺激するらしい。

3人目を狙う時に陣取った場所が標的と近過ぎて、「これは暗殺に成功しても仲間に追われるのでは……?」と思ったら、案の定追跡を受けていた。ヴァンサンは狙撃以外の場面でもそこそこの立ち回りを披露していたが、やはり射撃が好きだとミリタリー的な他の趣味にも目覚めるのだろうか。

薬莢に火薬を詰めたりする“作業”のシーンが非常に魅力的だったので、こうした“お仕事”の描写がもっとあっても良かったかと思う。とても整然としていて、揺れ動く心がその瞬間だけは落ち着くのが伝わってくる。

孤独の暗殺者/スナイパー(字幕版)

孤独の暗殺者/スナイパー(字幕版)

  • 発売日: 2015/11/19
  • メディア: Prime Video