オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ツイン・ピークス シーズン1、2』

Twin Peaks

監督:デイヴィッド・リンチ他 出演:カイル・マクラクラン、マイケル・オントキーン

概要

ローラ・パーマー殺人事件。

短評

序章と29話の全30話からなるドラマシリーズ。三十郎氏にとっては因縁の一作である。その“わけの分からなさ”は、他のリンチ作品、ひいては抽象的な作品全般への苦手意識を植え付け、三十路を過ぎた現在に至るまでスリラーのような見所の分かりやすいジャンルを愛好する理由となっている。今回の鑑賞で苦手意識を克服できたわけではないが、わけが分からないなりに面白い部分も多くて、作品の虜となるファンが数多く存在する理由は分かったような気もする。ドーナツを食べたくなる一作だった。

あらすじ

カナダとの国境沿いの町ツイン・ピークスで、ローラ・パーマーという女子高生の死体が発見される。町にやってきたFBIの捜査官クーパー(カイル・マクラクラン)は、他の事件との共通点を見つけ、地元の保安官ハリーと共に捜査を開始する。やがて、その事件は、ツイン・ピークスという穏やかな田舎町の様々な裏の顔を暴き出していく。

感想

三十郎氏とツイン・ピークスの出会いは中学生の頃に遡る。ドラマシリーズの存在を知らぬままに劇場版『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最後の7日間』だけを観て、ただただ「わけが分からん」という印象が残った。内容なんて全く覚えていないのに、赤い謎の部屋と小人の意味不明な組み合わせだけが鮮烈に記憶されており、それが「わけが分からん」というイメージに拍車をかけた(そこだけ覚えているというのは、逆に凄いシーンだという証拠なわけだが)。三十郎少年は「この世にはわけの分からぬ話が存在する」という事実を認識し、以来、“わけの分からぬ話”に対する強烈な苦手意識と拒否反応を持ち続けている。

同時にデイヴィッド・リンチ・アレルギーを患うこととなり、劇場版がドラマ版の視聴を前提とした作品であることを知ってなお、ドラマ版に手を出す気になれなかった。彼の他の作品を観た限りでは、「どうせわけが分からんだろう」としか思えなかったのである。しかし、サブスクの利用によって「分からなくてもいいや。ハズレでもいいや」という諦念の境地に達し、ようやくのドラマ版視聴と相成った。

確かに本作には“わけの分からぬ”箇所が数多く存在する。ローラ・パーマー殺人事件を軸としつつも、町では薬物取引や不倫、陰謀、メロドラマ、頭の狂った人々(ネイディーンや丸太おばさん)と様々な人間模様が繰り広げられており、一体どれが本筋なのか分からなくなってくる。“シュールなコメディ”とでも形容すべき描写が非常に多く、真面目にミステリーをやっているのか不条理コントなのか分からなくなって混乱する。その上、本筋のミステリーには「夢」や「異世界」といった超常現象が持ち込まれ、もう“なにがなんだか”である。

これら全てが渾然一体となって「わけが分からん」を生み出すわけだが、話の筋自体を追うことが出来ないほど難解というわけではなかった。確かにわけは分からないが、全てを理解しようとしなければ、ある程度は分かる。あとはサイドストーリーや不条理コントにノリ切れるのかが問題となるものの、隠喩的意味を探ろうとする試みさえ放棄すれば、“超独特”な体験として楽しめた。この感覚は本作独自と言えるだろう。そこにいかなる意味が込められているのかは知らないが、不条理コントは”わけの分からなさ”が突き抜けていて面白い。

一方で、ローラ殺害の犯人判明後は間延びした感があった。もっとも、本筋と無関係な不条理コントによる間延びは元からなのだが、物語の核を成すミステリーが引っ張ってくれるために、ある程度“おまけ”だと割り切って楽しめていた部分がある。犯人の判明は新たな謎を生み出すが、超常現象系統のネタに関して頭をシャットダウンさせがちな三十郎にとっては強い吸引力を持つ要素とは言えなかった。“余計な話”が出てきて“気になる話”が進まない展開に魅力があったのに対し、“気になる話”が終わって、”余計な話”と“わけの分からぬ話”だけが残った印象である。

結末は「そこで終わりかよ」と言いたくなるものだったが、(ほぼ)「25年後に会いましょう」の言葉の通りにリミテッド・シリーズが制作されたわけか。せっかくだから観てみたい気もするが、オリジナル版と同じくシネフィルWOWOWプラスで配信されるのだろうか。配信されても月額99円のサービス期間がもうすぐ終わってしまうのだが。

ツイン・ピークスは、やたらと美人の多い町だった。“美しき死体”ローラ・パーマー(シェリル・リー。従姉妹マディも同じ人)はもちろんこと、彼女の親友のドナ(ララ・フリン・ボイル)、クラスメイトのオードリー(シェリリン・フェン)、高校生と不倫中のウェイトレス・シェリー(メッチェン・アミック)。保安官事務所の声が変な女ルーシー(キミー・ロバートソン)まで美人だった。クーパーのように自然を愛さずとも移住を検討する価値がある。その上、終盤に登場する修道院出のアニーを演じているのがヘザー・グラハムである。三十郎氏が見たことのある彼女の出演作では本作が最も古く、なんだか顔がパンパンで、未完成な感じが可愛らしかった。この時代の“美人”は、個性よりも美形が重視されていて良い。

最後に、『森見登美彦をつくった100作』のNo.48なので紹介。これが本作を観た理由の一つでもある。登美彦氏は本書を次のように紹介している。

中学生のころ、このドラマの一大ブームがやってきて、私もあっさり飲みこまれました。というわけで、デイヴィッド・リンチの映画も好きになり、 とりわけ「マルホランド・ドライブ」が大好きです。私が書く「怪談」の源流の一つとも言えます。

河出書房新社編集部『総特集 森見登美彦: 作家は机上で冒険する!』より

言われてみれば、確かに“謎のシステムの周りをウロウロする話”である。わけの分からぬものは、分からぬままに受容してもよいのか。