オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ブラック・ボックス』

Black Box, 100min

監督:エマニュエル・オセイ=クフォー 出演:ママドゥ・アティエ、フィリシア・ラシャド

★★★

概要

交通事故で記憶障害を患った男が催眠療法に取り組む話。

短評

Amazon OriginalのSFホラー映画。あまりに意外性のない話である。タネ明かしされるよりも遥か前から嫌でもオチが分かってしまうので、主人公の不安や恐怖を共有することができない。あまりにバレバレの場合はミスリードであることが多いが、本作は実に素直な展開だった。ホラー映画としては不出来としか言いようがないのだが、同じようなテーマを扱った映画と比べると幾分マシな部分もあり、その“行為”を現実世界に置き換えて考えてみると、それなりに楽しめはした。

あらすじ

交通事故で妻を失ったノーラン。彼は娘エヴァと暮らしていたが、事故後に昏睡状態に陥った後遺症により重大な記憶障害に悩まされていた。通常の治療では効果が得られず、友人の医師ゲイリーの勧めもあって、ブルックス医師による先進的な治療に取り組んでみることにする。催眠術を使うという彼女の治療方法に不安を覚えるノーランだったが、娘との関係が上手くいっていないこともあって、治療を進めることに決める。ブルックス医師は“ブラック・ボックス”という装置を用いて、ノーランに潜在記憶を疑似体験させることで記憶を取り戻させようとする。

感想

第一回のブラック・ボックス治療は、結婚式の場面。花嫁や参列者の顔がボヤけて確認できず、『エクソシスト』的なウォーキングを披露する怪物の登場によって終了する。その後にノーランが自宅で見る結婚式の写真がブラック・ボックスでの記憶と異なっているため、これが他人の記憶であることは容易に想像がつく。また、ノーラン自身が交通事故に遭っていることから、関節グチャグチャなエクソシスト・ウォーカーが彼であることも容易に予想できる。ここまで全100分の内の30分強である。スシ屋の名前が「ニセ」なのも伏線だったか。日本語を知っていれば絶対につけない店名だが。

前者の予想は中盤で、後者は終盤で答え合わせがあるのだが、両方とも正解だった。したがって、展開には全く意外性がなかった。物語の謎は、映画が三分の一も進むことなく解けてしまったことになる。監督もバレると思って早めに前者をタネ明かししたのかもしれないが、大オチの後者もバレている。ミスリードじゃなかったのが逆に驚愕な展開である。ホラー映画において、“分かっていること”は恐怖を削ぐ要素となる。

こちらは「そうだろうな」と思って観ているので、最もホラー映画らしい描写のエクソシスト・ウォーカーに恐怖を感じることはない。これが観客の“目”となるノーランに対する数少ない脅威なのだが、残念ながら正体がバレバレである。ブルックス医師のサイコパスなマッド・サイエンティストぶりは嫌いじゃないかったし、真相を知ったノーラン(=トーマス)が豹変するシーンは娘エヴァにとってはホラーだったろうが(元からの顔つきなのか苦労が滲んでいるのか、エヴァの目元に見られるクマは雰囲気を出していた)、これは“怖がる主体”が観客ではないために怖くない。オチが分かりやす過ぎてミステリー面で引っ張ることもできないため、ホラー映画としてはイマイチである。

本作に面白い点があるとすれば、それは“問い掛け”の部分だろうか。トーマスが妻ミランダたちに会いに行き、正体を明かすと、彼女は「元の人は?」と問う。これに対するトーマスの答えが、「脳死した人だから移植と同じ」である。

本作の場合は、ノーランの身体自体は五体満足で、記憶も微かに残っていて、医師に邪悪な目的があり、トーマスがろくでもないDV男であるため、その“移植”が“誤った行為”として認識される。しかし、現実世界で行われている脳死者からの臓器移植と何が違うのだろう。“物語化”のために上述の複数の要素を盛り込んでいるものの、ノーランがブルックス医師以外には復活させられなかった脳死者であることには違いない。トーマスに身体を乗っ取られずとも、バラバラになって誰かに臓器を移植されていた可能性だってあるのではないだろうか。そうでなければ植物人間である。臓器移植によって命を救われる人や、それを待ち望む人は多いだろうが、彼らは“他人の身体を乗っ取って生きている”という十字架を背負っていることになるのか。

本作の製作は『ゲット・アウト』と同じブラムハウスのようだが、彼らは“乗っ取りネタ”がよほど好きなようである(真っ暗闇の演出も同じ)。安易な展開に流されてしまったのは、ホラー映画的にも、問いの掘り下げ的にも物足りなかったが、同じく“意識の移植”というテーマを扱った『レプリカズ』よりはマシだったか。もっとも、三十郎氏が「他人の身体を利用してまで生きたくはないし、自分の身体を使って誰かを生かしたくもない」という“非提供意志表示者”であるため、自分に都合よく読み誤っているだけの可能性はある。

ちなみに、本作は『Welcome to the Blumhouse』なるアンソロジー・シリーズの内の一作とのことであり、全8作品がプライムビデオで配信予定である。なお、今月中に4作品が配信されるはずだが、現時点で『冷たい嘘』の配信開始が遅れている。オリジナル作品の音声と字幕を選べるようになってからこういうことが増えている気がする。

ブラック・ボックス

ブラック・ボックス

  • 発売日: 2020/10/06
  • メディア: Prime Video