オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ブライトバーン/恐怖の拡散者』

Brightburn, 90min

監督:デヴィッド・ヤロフスキー 出演:ジャクソン・A・ダン、エリザベス・バンクス

★★★

概要

邪悪なスーパーマン誕生の物語。

短評

スーパーマンを模したスーパーヴィランが誕生するホラー映画。「スーパーパワーの持ち主が邪悪だったら……」という「if」の設定自体は好きだったが、ホラー映画としてはグロテスクな描写の割に全く怖くなかった。「ヒーローが邪悪」という設定自体は『ザ・ボーイズ』のような作品もあるため(映像化は本作の方が先)、オリジンとして葛藤や掘り下げがもっと欲しかったのが正直な感想である。しかし、“邪悪なスーパーマン”の“活躍”は、観客にとって都合の良いヒーロー像の裏返しであり、幻想を打ち砕く描写としての爽快感を覚えた。そういう意味ではしっかりとヒーロー映画だったか。

あらすじ

カンザス州のブライトバーン。不妊に悩んでいたカイルとトリのブライア夫妻に養子として迎えられ、一人息子として育てられたブランドン。彼は12才の誕生日を迎える頃に超人的な能力に目覚め、内なる邪悪な衝動を抑えられなくなる。実はブランドンは養子ではなく、墜落した宇宙船に乗っていた赤ん坊を夫妻が人間の子として育てた宇宙人なのだった。

感想

宇宙船に乗って地球に墜落し、農家の両親に育てられた、超人的な力を持つ宇宙人。明らかにスーパーマンである。目からビームを放ったり(アメコミでは「目から」というものが多いが、三十郎氏は日本の漫画の影響なのか「手から」の方が便利でいいと思う)、(理由は分からないが)マントを身に着けていたり、特定の物質が弱点なのもスーパーマンのパロディだろう。彼とブランドンの違いは、「力を使う目的」の一点である。ブランドンは外見的にも“いい感じに病んで”いたが、それが決定的な要因とは言えまい。

スーパーマンとの対比としてブランドンを描く際に焦点となるのが、その違いを生んだ要因である。全く問題がないわけではないが、子育てを誤ったが故に邪悪化したわけではなかろう。ブライア夫妻はケント夫妻と同じく“まとも”な人たちで、ブランドンに愛情を注いでいる。したがって、序盤のハチについての授業で「捕食者」や「托卵」といったキーワードが示されているように、元々“そういう存在”だったと考えるべきだろう。選択や可能性の問題ではなく、単純に凶悪な侵略種のエイリアンだったのだと。ブランドンの覚醒を思春期や反抗期と重ねてドラマ性を高めようとした割には安易だと思うが、スーパーパワーを持つエイリアンが皆人類の味方という方が都合の良い話である。『ザ・ボーイズ』みたいに地球人のヒーローだって邪悪化するし、スーパーマンだって生まれつきの善人である。

両親に問題があったとすれば、育て方よりも覚醒後の対応である。「あいつは人間じゃない」と割り切る父に対し、「私たちの息子よ」と譲らない母。無条件に信じてくれる母の愛は何物にも代え難いが、信じるが故に適切な対応が遅れてしまうこともある。もっとも、本作は“生来の属性”としてそうした可能性を放棄してしまっているわけだが(「可能性」で考えるならば、最初から人間でないと伝えていた場合はどうなっただろう)。この問題については、“邪悪なスーパーマン”の文脈よりも現実社会の発達障害なんかに置き換えた方が分かりやすいだろう。「信じる」という言葉の聞こえは良いが、それは時に問題を見て見ぬ振りしているだけだったりする。

標的の眼球にガラスを突き刺し(抜くシーンがとても“痛い”)、顎を割り、ビームで顔を焼き尽くす。悪役として覚醒しはじめたばかりなのに、ホラー映画の怪物らしいグロテスクな殺傷方法を心得ているブランドンくんである。本作は一応ホラー映画のはずなのだが、恐怖は全く感じなかった。ブランドンの覚醒が不可避であることは序盤にハチの話で明示されており、また、行動を始めてからも“怪物”の正体が分かっている。確かに彼は“わけの分からない存在”ではあるものの、同時に主人公でもある。標的以上に捕食者に対して感情移入させるような構成になっているため、襲撃シーンだけ標的視点にしても怖くないのである。

EDロール前に示唆されているように、シェアード・ユニバースとして続編を制作するとどうなるのだろう。スーパーヴィランたちはそれぞれ別種に見えたし、仮に同じ種族であったとしても「世界を奪う」という目的に「種として共同で」という意識が含まれているようには見えなかったため、世界の覇権を懸けてヴィラン同士が争う展開になるのだろうか。人類そっちのけの突き抜けた展開を期待したいものである。善玉が現れてヴィランと戦う話だけは避けてほしい。

ブライトバーン/恐怖の拡散者 (字幕版)

ブライトバーン/恐怖の拡散者 (字幕版)

  • 発売日: 2020/01/17
  • メディア: Prime Video