オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『サマー・オブ・84』

Summer of '84, 105min

監督:フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセル 出演:グラハム・ヴァーチャー、リッチ・ソマー

★★★

概要

お隣さんはシリアル・キラー

短評

少年たちの「ひと夏の冒険」的な要素が強い青春ホラー映画……からの「まさか!」があまりに強烈な一作。これでは「本当は怖いホラー映画」とでも言うべき意味不明な状態である。その瞬間が訪れた時は、「え……」と開いた口が塞がらなかった。典型的な青春ホラー映画としても普通に楽しめるようになっているため、そこからの落差がとにかく凄い。まったく、最悪の気分である(褒め言葉)。

あらすじ

1984年6月。オレゴン州イプスウィッチに暮らす陰謀論好きの15才デイビーは、町で発生中の少年失踪事件に「超クール!」と興奮していた。彼は新聞配達中に手伝いを頼まれたお隣の警察官マッキー宅の地下室に怪しい気配を感じ取り、友人たちと遊んでいる時にマッキー宅にいるのを見掛けた少年が行方不明となっていることを知り、マッキーこそが連続殺人犯ではないかと疑いを抱く。友人たちと共にマッキーの見張りを開始するのだが……。

感想

陰謀論好きで先走りがちな主人公デイビー。眼鏡でオタクのファラディ。身体は大きいが気が小さいウッディ。そして、不良枠のイーツ。絵に描いたような青春映画的構成の四人組である。隠れ家に集まり、無線で連絡を取り、素敵な年上のお姉さんに恋をし、初めての酒にむせ込み、下ネタで盛り上がる。清く正しい80年代的ティーンエイジャーの青春である。ここは普通にワクワクして観ていられる。

ウッディが“おらが町の事件”にあまりに喜んで先走るため、マッキーは冤罪なのではないかと思ったが、これが意外にも引っ張る。したがって、どうやら“映画的”に彼が真犯人ということになるらしい。「間違いでした」というオチでも青春映画としては十分に成立すると思うのだが、デイビー宅からの電話という決定的な描写が遂に挿入されて、そういうことになる(デイビーの少年目撃情報は三十郎氏が顔を覚えていなかったので、「決定的」とまでは思えず)。それまではサミー宅にいた元シッターのニッキー(ティエラ・スコビー)が真犯人という安っぽいどんでん返しすらありえるのではないかと思っていた。

そこからのもう一つミスリードを挟んで、「間違いでした」では済まされない話であることが判明する。“その瞬間”が訪れる、本当にその寸前まで(「リアル鬼ごっこしようぜ!」もギャグだと思って笑っていた)、三十郎氏は普通の青春映画だと思って本作を観ていた。マッキーが犯人である証拠を掴み、愛しのニッキーからキスしてもらうご褒美。その後、まだ逮捕されていない彼との直接対決が残されていると思ったらその通りになり、「後はなんとか退治してハッピーエンドだな」と完全に思い込んでいたところにガツンと不意打ちである。「え……嘘でしょ……」と呆然とし、犯行の証拠を掴むシーンから後は全部デイビーの夢オチなのではないかと思ったほどである。

青春の終わりである本作の結末は、「苦い」という言葉だけではちょっと片付けられない。あまりにも重い。デイビーは二つの「自分の行動が招いたことの責任」を背負って今後の人生を生きることになるわけだが、それは「ひと夏の冒険」の結果としてはあまりに酷である。「報い」という言葉を用いてもなお厳しい。友人の死だけでも十ニ分に重いのに、「お前は俺に怯えながら生きていくんだ」は怖すぎる。見ているこちらがトラウマを負う。「ホラー映画」という“そうだと思って観ていればそれ程怖くない”ジャンル映画が、紛れもない「恐怖」へと変貌する。

思い込みというものは実に怖ろしい。この大逆転を演出するために、本作の大半は「テンプレ通り」となっている。件の四人組の構成やストーリー展開。これらは「普通」の範疇から一切逸脱しておらず、特別に印象に残るような点はどこにもない。出来が悪いわけではないが、「普通に楽しい」だけである。三十郎氏ほど映画を観る人でなくとも、恐らくは同じ展開を予想して同じように裏切られることだろう。言わば「映画の大半を囮に使って観客を釣り上げた」状態なわけだが、全てを懸けただけのことはある衝撃度だった。また、単なる「驚き」だけでなく「嫌な後味」という点でも秀逸だった。

この「思い込みからの転換」を少しメタに考えてみよう。人々はデイビーのような陰謀論者を嘲笑い、「まさか隣人がシリアル・キラーのはずがない」と考える。そんな事をいちいち疑っていれば、正常な社会生活を営めないのだから当然である。しかし、シリアル・キラーや殺人鬼はこの世界に間違く存在しており、それが隣人でないと言い切ることはできない。デイビーにのしかかる「現実の重み」が、自分の身に降り掛かってこない保証はどこにもない。我々もまた「まさか知人や隣人が……」と“思い込んでいる”。

サマー・オブ・84(字幕版)

サマー・オブ・84(字幕版)

  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: Prime Video