オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『バニー・レークは行方不明』

Bunny Lake Is Missing, 107min

監督:オットー・プレミンジャー 出演:キャロル・リンレー、 ローレンス・オリヴィエ

★★★

概要

娘が行方不明になる話。

短評

イギリスの行方不明映画。犯人が判明する終盤以降は色々とツッコみたくなるような粗い脚本なのだが、物語の推進力が強力な一作である。 プロットの軸となっているのは「母親以外に(ほぼ)誰も娘を見ておらず、その実在が疑われる」という点なのだが、その作劇上の面白さ以上に、状況から導き出される「不安」という心理の描写が卓越していたように思う。そして結末は、怖いのか笑えるのかよく分からないが、とにかく凄い。

あらすじ

アメリカからイギリスに引っ越してきたばかりのアン(キャロル・リンレー)。彼女が保育園に預けた娘バニーを迎えにいくも、娘の姿がどこにも見当たらない。兄スティーブン(キア・デュリア)を呼び出して娘を探すも、保育園の人たちは誰もバニーを見ていないと言い、捜査を担当するニューハウス警視(ローレンス・オリヴィエ)までもがバニーの実在を疑うようになる。

感想

アンはシングルマザーである。「子供の失踪」と言えば、「両親」が対応するものと相場が決まっており、他の誰が信じてくれなくても互いにパートナーだけは信じ合えるものである。ところが、夫かと思ったスティーブンはアンの兄であり、「父と娘」と「伯父と姪」とでは、血縁や家族と言っても関係性や距離感が異なる。スティーブンはアンの唯一の味方とも言える存在だが、本質的に彼女は“一人”なのである。不安を掻き立てる設定の妙だったと思う。

「自分にとっての見知らぬ土地」では「地元民にとっても自分が見知らぬ人間」である。そこに相互不信や不安が生じる余地が生まれる。子供が消えたという状況だけでもアンをパニックに陥らせるには十分なわけだが、周囲の人々が「子供なんて見てない」「最初からいなかったんじゃないの?」なんて言い出すものだから、さあ大変。

本作は最初から観客に一切バニーを見せておらず、中盤以降に「アンの空想なのでは?」という疑念へと誘導されるのだが、基本の軸はアン視点の不安を共有できる。したがって、「面倒見といてあげる」と言って退職した調理員や保身を図る保育園職員、肝心な時に不在の園長と担任とダフネ先生、頭のおかしな元園長、厄介な変態家主と、誰も彼もが怪しく思えてくる。

この「誰もが怪しい」という状況は、「論理的に考えて疑わしい」のではなく、あくまで「アンが怪しいと感じている“心理状況”」である。冷静に考えて、彼らにはバニーを誘拐する動機などなく、それぞれが自分の利害に忠実に行動しているだけである(逆に彼らの方がアンを「怪しい」と感じる心境だって理解できる)。それを「怪しい」と感じさせてしまうのが、「不安」なのだ。失踪事件をモチーフに使って「不安」という心理を抉り出した点において、本作は秀逸と言えるだろう。

さて、タネ明かしと言うか、犯人解明編。ここは思わず「お前かい!」とツッコみたくなること請け合いだが、犯行は往々にして顔見知りによるものと決まっている。それはともかく、有能刑事が発言の齟齬に気付かなければ完全犯罪の達成目前というところまで上手くやっていたのに、人形の病院からいきなりボロを出し過ぎではないか。店内で焼くなよ。店主だって気付くだろう。アドリブが利かないタイプなのか。

また、犯人が「アンのイマジナリーフレンドだったのです」路線で処理しようとしていた場合、精神病院に縛り付けた彼女を独占できるのはよいが、警察への証言が矛盾するだろう。この路線を貫徹するためには、「アンの前では精神薄弱な彼女の心を壊さないように味方をしているけれど、警察にはバニーなんて本当はいないと裏で告げる」という姿勢を採っておく必要がある。後になって「実はいないんです」なんて言い出したら、「記録がない」と言い出す保育園職員以上に怪しまれること間違いなしである。虚偽通報とか捜査妨害とか、諸々の問題も生じる。

その上、アンだって犯人の真の姿を知っていたのなら、まずは彼を疑って然るべきである。これは彼以外に信用できる人がいないという状況が影響したか。

しかし、これらの脚本上の欠点があってもなお、三十郎氏は本作の結末が魅力的だと言わざるを得ない。だって最高に狂っているんだもの。人形を焼く時のサイコフェイスを見よ!その寸前まではキレイな顔したイケメンだったのに台無しだよ!幼児退行して「アハハハハッ!」と遊んでいる気味の悪さである。それに合わせるアンも凄い。バニーがトラウマにならないか心配だが、これを怖いと感じるのは大人だからなのか。それまではサイコスリラーだったのが、一気にサイコホラーへと変貌を果たす。冒頭でバッグに突っ込んだぬいぐるみのような伏線もあったわけだが、辻褄というよりも、勢いが全てを凌駕していた。

調理員が味にケチをつけられて愚痴り、ニューハウス警視の好物だというジャンケットは、甘いカッテージチーズ風のお菓子とのことである。

紙をビリビリと破いて文字が出てくるOPクレジットや、「隙間風の吹くパブは楽しいロンドンの中心」といった言い回しがオシャレだった。

バニー・レイクは行方不明 (字幕版)

バニー・レイクは行方不明 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video