オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』

Captive, 122min

監督:ブリランテ・メンドーサ 出演:イザベル・ユペール、マーク・ザネッタ

★★★

概要

ドス・パルマス誘拐事件。

短評

2001年にフィリピンで発生したテロ事件の映画化。なんと解決に377日を要したという誘拐事件である。期間が長過ぎて「誘拐」や「テロ」といった言葉から連想されるような極限の緊張感はなく、やや拍子抜けするものの、やはりこれだけの長期に渡ってテロリストに拘束された人々がいるという事実そのものが怖ろしい。しかし、ドキュメンタリータッチで淡々と描写される本作の間延び感は否定できず、少々退屈ではあった。政府側の対応の不備や少年兵に対する同情的なエピソードも描かれているため、紛争の背景についての理解があった方が楽しめたのかもしれない。

あらすじ

フィリピン南西部のパラワン島にあるドス・パルマス・リゾートを「アブ・サヤフ」と呼ばれるテロリストが襲撃する。テロリストはフランス人ソーシャル・ワーカーのテレーズ(イザベル・ユペール)らの観光客を誘拐し、身代金を要求しながら、海を山をと、移動を繰り返していく。

感想

この手の映画であれば、「平和なリゾート地が、ある日突然……」的な前置きから入って、被害者のキャラクター紹介をしたりするものだが、本作は開幕早々にテロが実行される。「わけも分からぬままに連れ去られる戸惑い」がよく出ている演出だったと思うが、緊張感のピークはこの冒頭である。

「テロ」と言うと、政治的・宗教的な主張を伴う「暴力」が連想されるが、誘拐事件の目的は「身代金」である。テロリストにも活動資金が必要であり、誘拐は実入りの良い“ビジネス”なのである(「鶏と卵」状態な印象はある)。したがって、冒頭の「ヤバい、ヤバい。どうなるんだろう……」という感覚とは対称的に、意外にもそれほど命の危機を感じることのない誘拐生活がスタートする。

それでもテロリストが人質を暴力で従える展開がありそうなものだが、意外なことにそれもない。テレーズは何度かテロリストに食って掛かり、「殺してみなさないよ!」とまで挑発するが、特に殴られたりするわけでもない。随分とヌルい対応だと思った。テロリストよりもアリやハチの方が怖いという有様である。人質に「イスラム仕様」を強制するシーンはあるが、「アッラー・アクバル!」の猛々しい掛け声とは対称的に、狂信的な印象は受けなかった。

テロリストの代わりに人質の身を脅かすのが、政府軍の対応である。彼らはやたらめったら銃撃戦を繰り広げ、「人質の救出」ではなく「テロリストの殲滅」を目的としているように見える。これも映画的な盛り上がりとしては弱いものの、人質にとっての“見捨てられた”感の演出に寄与していた。三十郎氏もこの事件を知らなかったのだが、誘拐事件があまりに長期に渡ると、世間の感心は薄れ、人質は死んだものと見做されがちである。こうなると、どんな形であれ「事件の解決」で幕引きを図りたい政府の意向が人質の軽視に繋がりかねない。きっと世間も「残念だけど仕方ないかぁ……」くらいに流してしまう人が多いはずである。

また、ある者たちが身代金を支払われて解放されていく一方で、テレーズのようなフランス人やアメリカ人夫妻は最後まで囚われたままである。これは「テロリストとは交渉しない」という本国政府の意向が関係しているのだろうか。人は自身を無関係な部外者と捉えて、この言葉を自然に受け入れがちだが、いざ当事者になると“建前”のせいで助からないのは辛い。もっとも身代金を払って人質を助ければ次の事件に繋がるわけで(だから“ビジネス”として成立する)、「テロ」と題される誘拐事件への対応は難しい。

「面白い」と言うのは不適切かもしれないが、イスラム社会ならではの独特の描写が見られた。途中で占拠した病院でナースを拉致し、「マエストロ」を自称するテロリストのリーダーが「独身の人はいる?」と言い出す。独身ナースが(半)強制結婚&妊娠という展開である。「他に選択肢がない」と文句を垂れつつも「お腹の赤ちゃんの健康のために」と解放される姿は満足気でもあり、なんだか不思議な光景だった。テロリストに恋する少女は典型的なストックホルム症候群なのだろうが、これまた「他に選択肢がない」と言ってイスラム教に改宗して仲間に加わろうとする男がいたりするのは、心理学的にどう解釈されるのだろう。

出産シーンがあったのは実話だからなのか?