オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『オーバーボード』

Overboard, 112min

監督:ロブ・グリーンバーグ 出演:エウヘニオ・テルベス、アンナ・ファリス

★★★

概要

記憶喪失の金持ち男を騙してこき使う話。

短評

全てが予定調和のラブコメ。『潮風のいたずら』という映画の男女逆転リメイクなのだとか(オリジナル版は未見)。特に印象に残るところはないが、毒にも薬にもならない、それなりに楽しい一作だった。記憶喪失になる金持ち男の情けない感じや、「大変、大変」と五月蝿いシングルマザーのちょっとウザい感じも良かったが、なにより三人の娘がとっても可愛いのが良かった。あれは父性に目覚めるのも無理はない。

あらすじ

大金持ちの放蕩男レオナルドのクルーズ船に清掃の仕事にやって来たシングルマザーのケイト(アンナ・ファリス)が、不当に解雇され、代金は支払われず、挙げ句は船から突き落とされてしまう。後日、船から転落して漂流したレオナルドが記憶喪失となっていることを知ったケイトは、友人テレサエヴァ・ロンゴリア)の勧めにより、彼の妻に成り切って引き取り、家事と土方仕事に従事させるという復讐に打って出る。

感想

登場時は絵に描いたようなゴミ男のレオナルドだが、レオ(記憶喪失状態ではこの名前で呼ばれる)としてボロボロになりながらも頑張っている姿を見ていると、復讐する側だったはずのケイトに対するヘイトが高まってくる。そもそも彼女は酷く自己中心的なのである。「舞台のオファーが来た」と言う母親に「子守を放棄するなんて自分勝手」と文句を言うが、母にとってそれは義務ではない。ケイトは感謝こそすれど文句を言える立場にはない。また、母に子守をさせようと三人の娘の意向を無視して引っ越して、長女エミリー(ハナー・ノールベルグ)には“惨めな”思いをさせている。

ボロ雑巾のようにこき使われているはずのレオの家事スキルが高まってくると、逆にケイトのへっぽこぶりが露呈することになる。毎日の不味いパスタの味が劇的に改善し、幼いモリーペイトン・レピンスキー)やオリヴィア(アリヴィア・アリン・リンド)たちもすっかりレオに懐く。ケイトは看護師試験の勉強に追われており、「忙しい、忙しい」と大変そうにしているが、家事と仕事の両方をこなし、その上、「君は大変そうだからもっと働こうか?」とまで提案するレオを見れば、ケイトが無能だっただけではないかと思えてくるのであった。レオが有能過ぎるのか?

オリジナル版は記憶喪失の金持ちが女とのことで、「初めての家事」に四苦八苦する話のようである。本作のレオナルドは「初めての家事」と「初めての仕事」の両方に悪戦苦闘しており、知っていれば「現代の価値観を持ち込んだな」と思うところだが、何も違和感は感じなかった。男が家事と仕事の両方をこなさなければならないという事実は、コメディ映画のネタとして強調せずとも当たり前に受け入れられるようになっている。そのせいで“両方をこなす”ことの苦労が少し矮小化されてしまってはいるが。

金持ちが庶民の家で過ごす──という状況設定ならば、それが男であろうと女であろうと、記憶喪失であろうとなかろうと、最終的には庶民の生活に馴染んで「金よりも大切なものがある」と言い出すに決まっている。本作もその例から漏れることはない。しかし、記憶を取り戻したレオナルドの場合は、妹ソフィア(マリアナ・トレビーニョ)と可愛すぎる三人の孫の魅力に屈した父によって6000万ドルの大金を手にしている。これでは折角庶民として生きる楽しさに目覚めたのに、二度と働くことなく元の性格に戻るのではないか。「金がなくても幸せ」なんていうのはアメリカでは欺瞞なのである。両方を手に入れないとハッピーエンドとは言えないのである。

レオがシーホークスのジャージを着せられているのでシアトルが舞台なのかと思ったら、なんとオレゴンだった。オレゴンにはNFLのチームがないそうである。カレッジフットボールのチームだと観客に分かりづらいし、これは仕方ないか。2018年の映画なのに2011年にチームを離れたハッセルベックのジャージなのは、お古だからなのか。

EDロールのスピーチ集は、コメディ映画にあるまじきつまらなさだった。

オーバーボード (字幕版)

オーバーボード (字幕版)

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