オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『プリズン・エクスペリメント』

The Stanford Prison Experiment, 122min

監督:カイル・パトリック・アルバレス 出演:ビリー・クラダップエズラ・ミラー

★★★

概要

スタンフォード監獄実験。

短評

スタンフォード監獄実験の映画化作品。『es[エス]』や『エクスペリメント』には実験を基にした原作小説というワンクッションあったのに対して、本作はスタンフォード大で行われた実験そのものを基にした内容となっている。「看守役が暴走する」という恐怖のイメージが強い実験だが、本作の場合は「そもそも実験の体を成していなかった」という側面が他作品よりも強調されていただろうか。その割には「教授は実験後にちゃんと学生のケアをして、今も精力的に活動しています」という実験を擁護するかのような文章が最後に挿入されて不可解だと思ったら、なんと原作がジンバルドー教授の著書なのだとか。三十郎氏には皮肉にしか思えなかったが。

あらすじ

1971年、スタンフォード大学の心理学者フィリップ・ジンバルドー教授が、日給15ドルで男子学生を募集し、夏休み中の大学で刑務所を再現した実験を行う。コイントスで看守役と囚人役に分けられた被験者たちだったが、看守役の行動がエスカレートしていく。

感想

夏休み中の大学施設を利用した実験なので、他作品と比べて手作り感が“実験っぽさ”を演出している。ドアは刑務所らしく格子がついていて外から中を覗けるものに取り替えられているが、「穴ぐら」と呼ばれる懲罰房がロッカーに毛の生えた程度の倉庫だったりして、ちょっとショボい。

こんな“非本格的”な実験で看守役になりきれるものなのかと疑問に思うが、ジョン・ウェインと呼ばれる男が初日からノリノリである。看守役には権力の象徴としてサングラスと制服が与えられ、彼は映画『暴力脱獄』の看守を参考にした横柄な態度を披露する。つまり、最初は“演技”としての側面を有していたのが、“気持ちよくなっちゃって”暴走するわけである。表面的には実験の狙いが当たった形に見えるが、何が独立変数となっているのかが不明確である。

看守役が暴走するのは、多くの人が知っている通り。「暴力なし」の条件で始めた実験に暴力が持ち込まれたり、被験者が中止を訴え出たりすれば、実験の管理者である教授が対処せねばならない。しかし、困ったことにジンバルドーが“悪ノリ”する。「看守に任せろ」と言っている内はまだ経過を観察したいという意図が感じられるが、看守に「囚人の絆を断ち切れ」とアドバイスしたり、仮釈放審査と称して「お前は反社会的なクズだ」と罪悪感を植え付けるような行動に出る(囚人役は「いや、何もしてないんだが……」と冷静にならないのだろうか)。看守役は自らの権力に酔って暴走したわけだが、観察役もまた同じ状況に陥ったことになるのだろうか。この点も考察されるべきだと思うのだが、そうなると観察役に対する観察役が必要で、更に……という無限ループに……(これは条件を整えれば対処可能な問題だと思うが)。

同僚の教授に「実験条件は?」と尋ねられても答えられずに「忙しいんだ!」と逆ギレするジンバルドー。上述の独立変数の問題を考慮していない、実験とは言えないような杜撰な実験であることを象徴するシーンである。そんな実験の問題点を指摘するような内容の一作でありながら、最後は良心に目覚めたジンバルドーが実験の中止を言い渡し、「被験者に後遺症はありません」と申し開きされている。その上、実験に疑義を呈した教授の恋人兼教え子(オリヴィア・サールビー)と結婚したという余計な情報まで提供されていて、何がしたいのかよく分からないことになっている。もしかして、彼の著作を原作として使用する上での条件だったりしたのだろうか。

何度もベッドメイクし直させたり、夜間に点呼を取って運動させたりする、権力の無意味な誇示は、実の居心地の悪い時間となった。教授が中止を宣告する直前のイジメなんて、「いつになったら終わるのか……」と永遠のように長く感じられた。看守役の暴走が注目を集めがちな実験だが、影響の大きさは囚人役の方が大きいように思う。もっとも「囚人という立場」が彼らを変えたのか「看守役の横暴」が変えたのかよく分からないという問題は残るが。

この実験には多くの問題があっただろうが、「閉鎖的な環境下で人は立場や権威に盲従する」という指摘自体は正しいだろう。ここまで極端な実験でなくとも、我々日本人の多くは、「僅か一年の違い」が似たような状況を生み出すことを中学・高校の部活等で(働き出してもそのままな体育会系もいるが)経験して知っているのだから。

プリズン・エクスペリメント(字幕版)

プリズン・エクスペリメント(字幕版)

  • 発売日: 2019/09/01
  • メディア: Prime Video