オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ケルベロス 紅の狼』

O Doutrinador(The Awakener), 107min

監督:グスタヴォ・ボナフェ 出演:キコ・ピソラート、タイナ・メディナ

★★★

概要

娘を殺された警察官が汚職政治家に復讐する話。

短評

ブラジル製のダークヒーロー映画。話自体はよくある復讐譚なのだが、汚職まみれの腐敗国家への怒りが南米的リアリティを感じさせた。この手の話は「徐々に真相に迫っていき、最後に真犯人を倒す」という流れになりがちだが、「犯人云々よりも関係している汚職政治家を一掃してやる!」というノリとマスクの存在が、主人公の行動に個人的復讐を超えたヒーローとしての性格を付与していた。「隠密行動中なのに却って目立つだろう」とツッコみたくなる目の部分が赤く光るマスクも、ほどほどにグロテスクでスタリッシュなアクションも、なかなか格好よかったと思う。全7話のTVシリーズが同じキャストで製作されているそうである。

あらすじ

コレア知事には公共医療費20億ドルの横領容疑があり、州の医療体制は逼迫していた。汚職の証拠を掴んだ特殊武装DAEのミゲルたちは知事を逮捕するが、ミゲルの娘アリスが何者かの凶弾に倒れ、手術を受けられぬままに命を落とす。知事は釈放され、抗議デモに紛れ込んだミゲルは、偶然手にしたガスマスクを身につけて州庁舎へ侵入し、知事を撲殺するのだが、その姿をデモ参加者でハッカーのニナ(タイナ・メディナ)に目撃されてしまう。

感想

正体がバレて窮地に陥るかと思いきや、ニナも反体制派なのでミゲルに協力してくれて、知事以外のターゲットがうようよと湧いて出てくる。どいつもこいつも汚職政治家ばかりである。ミゲルが標的を次々に抹殺していくと、彼は民衆から「啓発者」と呼ばれるようになるが、「ケルベロス」と呼ばれるようになることはない(押井守の『ケルベロス-地獄の番犬』にビジュアルが似ていることによる邦題らしい)。個人的な復讐として始まった物語が、大統領選挙までをも巻き込むという内容である。

ミゲルに特殊能力がなくて泥臭い分だけ、スーパーハッカー・ニナの存在が漫画的ご都合主義に思えなくもないが、ここは許容範囲内と言ってよいだろう。ストーリー的に重要なのは、政治家、官僚、大企業、警察が四位一体の汚職体制を築いていて、法の執行官が法に背く行為が、大衆にとっての“正義”として受容されるという点である。「法で裁けない悪人をなんとかしてくれ」という感情は汚職の蔓延るブラジルに限らず広く共有されているため、観客はミゲルのダークヒーローとしての活躍に爽快感を覚え、溜飲を下げる。彼に殺される悪人の中では、札束をカウントして「エッヘッヘ」とニヤついているところを背後から撃たれるハゲデブの“いかにも感”が好きだった。

「真犯人に復讐を遂げる」という分かりやすい最終目標のない物語は、ともすれば目的地不明の散漫な展開となりかねない。本作にも「復讐したところで娘は返ってこない」という空虚さや、ミゲルの相棒エドゥが彼の犯行に気付いて「俺たちの仕事は法を守ることだ!」と説く、ありがちな苦悩エピソードが挿入されてはいるものの、「ダークヒーローが悪人を討つ」というシンプルな設定からの逸脱は小さかった。物語の奥行きとしては物足りないところだが、「一番上まで腐っているから全部やっつける」というのは妥当な落とし所だろう。

目立ちすぎる赤ライトを点灯する意味は、最初の犯行時から一貫して存在しない。単純に格好いいだけだろう。それはともかく、標的にも、そして警察の同僚にも正体がバレた後もマスクをつけ続ける意味はあったのだろうか。視野が狭くなるだけだろうに。マスクという“象徴”がミゲルをヒーロー化させているのは分かるのだが、彼自身にとって“ヒーローであることの自覚”が重要となるような描写があってもよかったと思う。単なる復讐が、正義の遂行へと変化する。その正義が、個人的なものから社会的なものへと変化する過程を繋ぐアイテムとしてのマスクにもう少し意味を持たせてほしかった。

多少の格闘戦はあるものの、基本的には射殺が多い。その中において、コレア知事の殺害だけは文字通りの“撲殺”であり、顔が潰れるまで殴り続けている。主人公は特殊部隊らしいマッチョな体をしているので、パンチの一発一発に重みがある。この怨念の込もった犯行のインパクトが絶大だったに、残りの犯行が血糊でグロテスク演出していても印象が霞んでしまった。

ケルベロス 紅の狼(字幕版)

ケルベロス 紅の狼(字幕版)

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