オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アメリカン・パイ』

American Pie, 95min

監督:ポール・ワイツ 出演:ジェイソン・ビッグス、クリス・クライン

★★★

概要

男子高校生四人が卒業までに童貞を捨てようとする話。

短評

脱童貞。これは既に成し遂げた者を除く全ての男子にとって最大の問題である。進学や将来よりも重く青少年の眼前に横たわる、ある意味では生きるか死ぬかよりも重要な問題なのだ。自分という人間が他者に受け入れられるか否かの分水嶺であり、人格形成に多大な影響を及ぼす。ここで拗らせた者は、たとえ童貞を捨てようとも、その後の人生を童貞的精神と共に惨めに送る羽目になるだろう。本作がスピンオフを含む全8作のシリーズへと成長したのは、阿呆なコメディでありながらも、描かれるテーマが青少年期の最重要課題であるからに違いない。いつの時代にも童貞がいて、次の時代には次の童貞が生まれる。このテーマは永遠に古びないのだ。

あらすじ

高校卒業を三週間後に控えるジム、オズ、ケヴィン、フィンチの四人の男子高校生。全員童貞である。彼らが勝負の夜と目したパーティーで誰一人として事を成せず、翌朝、「高校卒業までに全員で童貞卒業するぞ!」と協定を結ぶのだった。最大のチャンスはプロムの夜。四人はそれぞれ行動を開始するが……。

感想

タイトルは「三塁ってどんな感じ?」とオズに尋ねたジムの奇行から。問答無用に伝説のシーンである。童貞というのは“予行演習”にだけは余念のない生き物だが、この実行力と性への渇望には素直に感心する。三十郎氏なら冷静さが勝ってしまうところだが、この暴走的性欲の強さは頼もしいとすら言える。とある調査によると、アメリカ人男性観客の約3%が彼と同じことを試したそうである。息子の奇行を目撃したジムの父が「母さんには二人で全部食べたって言おう」と冷静なのも、自身に似た経験があるからに違いない(靴下にはどう反応してよいのか困るが)。童貞は必死なのだ。必死じゃない童貞なんて何も面白くない。なお、調査の件は嘘である。

伝説のアップル・パイ以外にも楽しいネタが多い。ケヴィンが兄(ケイシー・アフレック)から受け継ぐ“聖典”が図書室に隠されているというギミックや、チェコからの留学生ナディア(シャノン・エリザベス)の盗撮生配信を鑑賞する男子の一体感が青春映画っぽくて素敵である。下ネタでは精液ビールが最大のインパクトか。

ナディア相手にいち早く童貞卒業できそうだったジムが“ミニットマン”(というよりもセカンドマンだったが)と化すのは恥ずかしさでトラウマになりそうだったが(彼が「経験前にセックスが嫌いになった」と発言するのはこれが真の原因ではないかと思っている)、インターバルなしでニ連射は才能だろう。地味な不思議ちゃんミシェル(アリソン・ハニガン)が実は性に奔放というあるあるネタを経て卒業に至るジムだったが、“二枚重ね”は摩擦で破れる可能性があるらしいので、早漏諸氏は真似しない方がよい。事を成した翌朝にミシェルがいなくて「遊ばれた?」と喜ぶジム。「愛してる」が言えないケヴィンとは真逆のシチュエーションなのだが、責任を伴わず体を求められるだけというのは、男にとっては確かに嬉しい。

童貞卒業へ向けて様々なアプローチを取る四人。相手の可愛さという点で羨ましいのはオズだが(ヘザー役がミーナ・スヴァーリ通過儀礼に伴う成長という意味でも彼が最も真っ当な童貞卒業を果たしたと思う)、方法論が面白かったのは最もダメそうなフィンチ。その内容とは、「ジェシカ(ナターシャ・リオン)に200ドル払って自身に関する噂を流してもらう」というもの。『スマート・アス』では名門ビジネススクール生が集まって生み出した理論を、一人の男子高校生が実行していたことになる。モテたければモテろ。このトートロジーこそが真理なのだ。スティフラーの嫉妬心を計算に入れなかったのは読みが甘かったが、考え方自体は悪くない。

恋人ヴィッキー(タラ・リード。今では逞しくサメと戦っている彼女が若い!)がいるケヴィンが協定の言い出しっぺというのは少々ズルい気がする。圧倒的に有利である。しかし、プロム当日になっても望み薄な友人たちを叱咤するという“調子こき”に出たケヴィンに対するジムの反応が良い。曰く、「一人じゃ童貞捨てるのも怖いのか」と。その後、彼は素直に童貞喪失への不安を吐露する。童貞は捨てたいし、ヤリたい。その気持ちに偽りはないが、童貞は同時に安住の地でもある。男性諸氏には思い出してみてほしい。童貞仲間と脱童貞を夢見て下らない下ネタに終始していた時代は楽しくなかったか。それは愛しの“ぬるま湯”なのである。童貞を捨てると、童貞以外にも失うものがある。阿呆な描写の連続でありながら、意外にも童貞的機微をよく捉えた一作なのである。なお、三十郎氏はぬるま湯の居心地の良さのせいで脱童貞が遅れたと思っている。

セックス・ロボット“シャーミネーター”を自称する失禁童貞のシャーマン。タラ・リードが出演していることもあって、そんなタイトルのサメ映画がありそうだと思ってしまった。

アメリカン・パイ (American Pie)

アメリカン・パイ (American Pie)

  • メディア: Prime Video