オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ホラー・シネマ・パラダイス』

 All About Evil, 98min

監督:ジョシュア・グランネル 出演:ナターシャ・リオン、トーマス・デッカー

★★★

概要

オリジナルのホラー映画が評判のホラー専門映画館。

短評

決して出来が良いわけではないが、アイディアと勢いが秀逸なホラー・コメディ。それはちょうど劇中に登場する映画と同じと言えるだろうか。グロテスクな描写はそれ程でもないものの(「唇を縫ったり」とそれなりにはある)、舞台上で失禁したり、ギロチンでおっぱいを切ったりする悪趣味演出が素敵だった。“悪役”たちのキャラクターも、安っぽい割には粒ぞろいで気に入った。

あらすじ

亡き父の遺したヴィクトリア劇場をホラー専門の深夜映画館として再生しようとするデボラ(ナターシャ・リオン)。しかし、彼女の母親が「この映画館は売る」と言い出し、勢い余って殺してしまう。この“事故”によって生じた上映の遅れにデボラが焦ってしまい、誤って殺人の様子を捉えた監視カメラの映像を流してしまう。ところが、これが「リアルなホラー映画だ」と観客にウケて、デボラは次の“作品”の制作へと取り掛かる。

感想

邦題は『ニュー・シネマ・パラダイス』のパロディだが、原題は『イヴの総て』のパロディ。デボラは元々女優志望でありながらも図書館勤務に甘んじており、自主制作映画の成功は、単に映画館の存続に一役買うだけでなく、彼女の承認欲求を大いに満たしてくれるわけである。したがって、彼女は大いに“調子に乗る”。同僚エヴリンに無断欠勤を心配されると、「図書館なんか知らん」と放言し、「これからは売り子もやらん」と映画製作への専念を宣言する。映画が話題になってテレビ番組への出演を果たすと、内容の紹介を求める司会者に対して「芸術に説明は要らん」と大物を気取り、自身をヒッチコックに重ねさえする。彼女はダミ声のムチムチ熟女といった雰囲気で、その横柄さと邪悪さが大いに光っていた。

そんなデボラの“芸術”の良き理解者が、映写技師のトウィグス氏。最初の作品上映後に「オリジナルの短編をお楽しみいただけましたか」と挨拶し、死体を屋根裏に隠す。次の作品からは役者兼カメラマンとして活躍する。デボラは突発的殺人により「目覚めてしまった」と言えなくもないが、このサイコ老人は何者なのか。(途中で邪魔が入ったが)愛なのか。ヴィクトリア劇場時代はホラー専門でもなかったろうに。トウィグス氏の他にも、デボラたちが“スカウト”してきた双子の殺人鬼ヴェダ(ジェイド・ラムジー)とヴェラ(ニキータ・ラムジー)や、凶暴なひったくりのエイドリアン(ノア・セガン)もキャラが立っていた。

デボラの最初の作品は、意図してかせずか『13日の金曜日』のパロディとなっている。これは分かりやすかったが、続く作品が『二都物語』(おっぱいをギロチンで切るので『二乳物語』)、『じゃじゃ馬ならし』、『戦争と平和』、『緋文字』とシブいセレクトである。双子姉妹は『シャイニング』のパロディではないかと思うのだが、ミーハーなのかガチ勢なのか分かりづらい構成である。もう少し対象を絞ってもよかったのではないかという気もするが、『オズの魔法使い』を愛した父の影響で“本格派”だったのか。しかし、二作目以降は「携帯を切りましょう」「映画館では静かにしましょう」という映画館でお馴染みの本編前映像として制作しており、意外にもセンスがあると思った。

屋根裏から落ちてきた死体がエイドリアンにすっぽりハマったり、双子姉妹がブスブスと刺し合ったりするシーンも好きだったが、最も笑えたのは最後のプレミア上映のシーン。観客に乾杯用の毒入りドリンクを配布し、デボラ作品史に残る大規模な撮影となるのだが、“訓練された観客”たちは何が起きても「リアルね」と席を立とうしない。中には座ったまま死んでいる者までいる。デボラたちも凄いが、常連客も凄い。

『二乳物語』を絶賛する男子高校生スティーブンを、女友達のジュディが「女嫌い」と非難する(対するスティーブンは「ミス・フェミニスト」)。ホラー映画の犠牲者には男も多いが、「スクリーム・クイーン」という言葉が存在する通り、女性の犠牲者が目立つ印象がある。女嫌いとまではいかずとも、嗜虐趣味の表出だったりするのだろうか。スティーブンは映画の内容が「本物」だと判明して手の平を返していたが、むしろ価値が高まるのではないかと思う。

ホラー・シネマ・パラダイス [DVD]

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  • 発売日: 2015/11/27
  • メディア: DVD