オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

Tronbo, 124min

監督:ジェイ・ローチ 出演:ブライアン・クランストンダイアン・レイン

★★★

概要

赤狩りでハリウッドを追放された脚本家が偽名で脚本を書く話。

短評

赤狩りの時代に偽名で活躍した脚本家ダルトン・トランボを描く伝記映画。この映画が製作されなければ、三十郎氏はかの有名な『ローマの休日』が彼の業績であることを知らないままだっただろう。重くなりがちなテーマを軽いタッチで描いており、楽しく観られる一作なのだが、そつのない仕上がりに徹した結果、やや平坦な展開になってしまった感は否めない。また、これも史実なので仕方がないが、『ローマの休日』が偽名での活動を本格化させる以前の作品という点もドラマチックな盛り上がりを欠く一因となっている。

あらすじ

ファシズムの台頭によりアメリカ国内で数を増やすも、冷戦の勃発により敵視されることとなった共産党員。脚本家としての最高額でMGMと契約を結んだダルトン・トランボブライアン・クランストン)もその一人だったが、非米活動委員会での議会侮辱罪により収監されてしまう。出所後、ブラックリスト入りによってハリウッドから追われた彼は、キング・ブラザーズというB級映画の会社で偽名を使って脚本を書き始める。また、収監前に友人イアン・マクレラン・ハンター名義でパラマウントに脚本を売った『ローマの休日』が映画化され、オスカーを獲得する。

感想

これがフィクションであれば、偽名活動の集大成として『ローマの休日』が登場するのだろうが、残念ながら(?)史実に基づく伝記である。その扱いは非常に軽い。仲間の支援にも金を使って食い詰めたトランボがハンターに話を持ち掛け、あっさりと金を手にしている。それがオスカーまで獲得してしまって、トランボもハンターも「要らない」と互いに押し付け合う描写は笑えたが、三十郎氏の同作への思い入れの深さに対して、劇中ではそこまで重要な存在とはなっていない。

その代わりに重要な転機となるのが、同じく偽名でオスカーを獲得した『黒い牡牛』である。これは完全に三十郎氏の問題ではあるものの、同作を観ていないために盛り上がりきれない。トランボが家庭問題に向き合った経験を経て同作を書き上げる描写があるが、内容を知らない上に、家庭問題の描き方も平凡なものである。“不当な弾圧に屈することなく脚本を書き続ける”という意味でのドラマはあるのだが、その体験を重ねられるような内容なのが『スパルタカス』くらいなので、どうも全体的に“薄い”気がする。独自の方法で赤狩りと戦った脚本家がいたというモチーフは面白いが、その苦悩の掘り下げ方は浅かったように思う。

もっとも、これはトランボの脚本を買ってくれたフランク・キング(ジョン・グッドマン)の会社がB級映画専門ということも関係しているので、仕方のないところではある。俳優のボイコットをチラつかせてキングを脅す“アメリカの理想を守るための映画同盟”を、「役者なんか素人でいい」「うちの映画はどうせゴミ」「(共産主義者を使っていると報道されても)うちの客はどうせ新聞なんか読めん」と彼が撃退する姿は頼もしかったが、それ故にゴーストライターとしての活躍の描写が制限された印象である。「彼のおかげで書けた」と考えるべきなのか。それとも「もっと良い仕事ができたはずなのに」と考えるべきなのか。仕事量が多すぎて仲間に仲介する展開は面白かった。

トランボの起用を公表したカーク・ダグラスオットー・プレミンジャーが格好よく見えはするものの、これは時代の流れありきだろう。ケネディが『スパルタカス』を褒めるシーンがあるように、既に風向きが変わっていたのである。二人の行動は確かに勇気あるものだったのかもしれないが、勝算がなければ別の行動となったはず。それがハリウッドである。

ちなみに、映画同盟にはウォルト・ディズニーも名を連ねており、当時のプロパガンダを担ったディズニー社が今では率先して“別の正しさ”を訴えているという皮肉である。これも「その方が儲かる」という理由でやっているくらいの距離感でよいのではないかと思っている。「映画には影響力がある」という理由でトランボたちは迫害されたわけだが、全く同じ理由で現在のハリウッドが提示する“正しさ”にも疑問の目を向ける必要はないか(それが「間違っている」とまでは言わないが)。ヘッダ・ホッパー役のヘレン・ミレンの憎たらしい好演を見れば、その裏返しとなる「セレブがこんな素晴らしい言動をしている」という類の賞賛報道の胡散臭さも分かるはず。もっとも、どう転んだところで後世に映画化して儲けられるのだから、ハリウッドに“負け”はない。

「下院非米活動委員会(The House Committee on Un-American Activities)」という名称がシンプルに怖い。「非米」という言葉の存在は、逆に「何がアメリカであるか」という複雑かつ曖昧、そして流動的な玉虫色の概念を、何者かの都合に合わせて恣意的に固定する行為と同義である。現在の日本にも自分と異なる意見を持つ者を「反日」とひとまとめにする人々がいるが、彼らが歴史から学ばないのか。それとも歴史から学んだ者たちが彼らを利用しているのか。

1950年にトランボが収監され、翌1951年に出所すると、娘ニコラがマディソン・ウルフからエル・ファニングに成長している。一年で変化し過ぎである。次女ミッツィをマディソンの実妹メーガン・ウルフが演じているため、折角なのでもう少し引っ張ってほしかった気もする。社会運動に傾倒するティーンエイジャー役や最後の大人びたメイクはエルファニちゃんがハマっているため、交替するタイミングとしてはあそこしかなかったのか。なお、ミッツィの方もいつの間にかベッカ・ニコル・プレストンへとバトンタッチしている。

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(字幕版)

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(字幕版)

  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: Prime Video