オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『BUG/バグ』

Bug, 101min

監督:ウィリアム・フリードキン 出演:アシュレイ・ジャッドマイケル・シャノン

★★★

概要

姿の見えない虫に襲われる話。

短評

虫の出てこない昆虫映画。つまり、統合失調症である。主人公たちに見えている世界を描いて最後に「統合失調症でした」と“どんでん返す”タイプではなく、観客には虫が一切見えないため、彼らが統失であることが普通に理解できるようになっている。どちらかと言えばホラーやスリラー寄りの一作なのだとは思うが、統合失調症の描写があまりに“いかにも”なものなので、思わず吹き出してしまうシーンが多かった。素直な見方とは違うのかもしれないが、それはそれで楽しかったと思う。元は舞台劇とのことである。「虫が見えない」という状況が観客にとって自然となる舞台ならば、もう少しシリアスに感じられたか。

あらすじ

バーのウェートレスとして働き、モーテルで暮らすアグネス(アシュレイ・ジャッド)は、元夫ジェリーからと思しき無言電話に悩まされていた。ある日、同僚のRC(リン・コリンズ)にピーター(マイケル・シャノン)という男を紹介され、交わると、彼が「ベッドに虫がいる」と言い出す。アグネスにはその虫が見えなかったが、ピーターが虫の駆除に対して異常な執着を見せるようになる。

感想

鳴り止まない無言電話に悩まされるメンヘラ女の方が統失なのかと思ったら、知り合った男の方が統失である(RCはなんてことをしてくれたのか)。彼は湾岸戦争に従軍した元軍人とのことであり(統失患者の話す内容に真実が含まれているのかは不明だが)、PTSDが原因と考えてよいだろう。「朱に交われば赤くなる」方式でアグネスも統失化していく展開は唐突と言うか、「いやいや、虫が湧いてるのはこの男の頭でしょ。気付けよ」という印象なのだが、そこはちゃんと理由付けがなされている。

アグネスは「当時6才の息子ロイドが10年前にスーパーで姿を消した」と話している。なんらかの理由で息子を失った現実をそのままに受け入れられず、認知を歪めるための“設定”としてピーターの虫陰謀論が都合が良かったのだろう。急速な病状の悪化によりピーターと同レベルに達した彼女が、水を得た魚のように「息子の誘拐」と「陰謀」と「虫」を結びつけて支離滅裂に語る姿は爆笑ものだった。無言電話の主は明かされなかったが、恐らくは最初からその傾向があったのだ。DV夫のジェリーからピーターに乗り換えて「私にはこの人しかいないの」と言い出す姿から共依存系のメンヘラかとも思われたが、これも“素質”だったのか。

「体の中に虫が湧いている」という考えに取り憑かれ、除去のために自傷すれば、最後に行き着く先は決まっている。言わば「怪物として死ぬ」とでも形容すべき最期となるわけだが、ある意味ではこれもハッピーエンドになるのか。

最初は「ベッドに虫がいる」と言い出すだけなのが、次は部屋中に大量のハエ取り紙を吊るし、「血液中に寄生虫がいる」と顕微鏡を覗きはじめる。ここまでは“ヤバい人”であり、「あっ……」と察するだけなのだが、次のステップが強烈。全ての家具をビニールで覆い、なんと部屋中にホイルを張り巡らせる。どうして統失患者とアルミホイルはここまで惹かれ合うのだろうか。彼らの理論によれば「虫が発信する信号を遮る」とのことである。「電波系」という言葉が生まれるわけだ。

「統失は辛いよ」的な描写の中では宅配ピザに関するものが可笑しかった。まず、宅配人がスパイではないかと疑わなければならない。次に、ドア下の隙間を利用して紙幣を差し出すため、お釣りを受け取る事ができずに無駄遣いする羽目になる。そして、なんとか商品を入手するも、箱を開けるだけでビビり倒し、顕微鏡チェックして「虫がいる!」となるので、結局食べられない。本人たちは真剣そのものなのだろうが、他人事だと完全にギャグである。

当時40才手前のアシュレイ・ジャッドがヌードを披露して頑張っていたが、マイケル・シャノンの怪演の方が印象的だった。登場シーンでは影が薄すぎて「こいつは幻覚なのでは?」と疑ってしまうレベルだが、徐々に狂った本性を発揮していく。この変化の速度にも駆け足感はあったが、「ここに卵を植え付けられたんんだ」とペンチで歯を抜くシーンなんかは相当に迫真であり、冷静に考えずとも異常なことを当然に実行できてしまう病気の怖さが表れていた。

BUG/バグ

BUG/バグ

  • メディア: Prime Video