オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『薔薇の名前』

The Name of the Rose, 129min

監督:ジャン=ジャック・アノー 出演:ショーン・コネリークリスチャン・スレーター

★★★

概要

北イタリア修道院連続殺人事件。

短評

荘厳な雰囲気が魅力のミステリー映画。キリスト教の歴史に詳しくない三十郎氏からすると「そうだったのかー」レベルの話とオチなのだが、本作に登場する教義解釈を巡る対立やアリストテレスの幻の禁書といったエピソードには、基となる史実が存在するそうである。その辺りの事情を理解していれば知的好奇心をくすぐられるところがあるのだろうが、ホームズ‐ワトソン的な主人公コンビが謎を解く探偵物語としても普通に楽しめる。

あらすじ

1327年、北イタリアの僧院を修道士ウィリアム(ショーン・コネリー)と弟子アドソ(クリスチャン・スレーター)の二人が訪れる。僧院では写字生のアデルモが死亡する事件が起きており、これが悪魔の仕業ではないかと噂されていた。院長に捜査を依頼されたウィリアムは自殺と断定するも、程なくしてギリシャ語翻訳者のヴェナンツィオの死体が発見される。

感想

被害者二人の職業の共通点が関係しているとウィリアムが睨んだ通りに、事件の真相は“開かずの図書室”に隠されている。清貧論争と呼ばれる解釈論争があったり、ドルチーノ派と呼ばれる異端信徒の登場により何やら壮大な宗教的背景を感じさせるものの、終わってみればシンプルな話である。この辺りは実に“ミステリーらしい”と言えるだろう。多くのミステリーがオカルトやホラーといった非現実的超常現象で読者をミスリードするが、本作の場合は宗教ネタである。それらの要素は事件に直接関係ないのだが、「もっともらしい」と感じられるだけの説得力や面白さがあることが重要なのである。本作にも「何か凄い事が起きているぞ」というワクワク感があった。

それを盛り上げてくれるのは、修道院の静謐な雰囲気に似合わぬ血生臭い光景だったり、自分に鞭打つ不気味な白ハゲだったり、焙り出しの暗号や秘密通路といったいかにもミステリーらしい謎めいたアイテムだったり、修道院のセットそのものだったりする(どこで撮影したのかと思ったら修道院の外観だけを建設したらしい)。特に迷路的な図書室の造形は秀逸だった。これらを観ているだけでも楽しいので、宗教的な素養がなくともミステリーとして楽しめる。

シンプルなミステリーという点はよく意識されているようで(もっとも原作の難解な要素は省略されているらしいが)、ウィリアムは「バスカヴィルのウィリアム」と呼ばれ、アドソは「ワトソン」に似た発音とのことである。本作には「初歩だよ、アドソ」というお馴染みの台詞も登場している。もっともホームズとは異なりウィリアムは人格者で、その威厳ある姿が実に“師匠”っぽくて格好よかった。コネリー以外だとロン・パールマンの怪演が光っていた。

オチは序盤にヒントが提示されていた通り。アリストテレスの喜劇論が記されているとされる『詩学 第二巻』の存在を隠すのが目的の犯行である。三十郎氏としては「狂信者がまた阿呆なことを……」と、この手のフィクション一般に対するものと同じ感想を抱くわけだが、どうも中世のキリスト教徒には本気で笑いを怖れる者たちがいたらしい。「笑いが恐れを殺す」「恐れなくして信仰なし」というのが彼らの論理であり、偉大なるアリストテレスが笑いを認めるようなことがあっては困るのだとか。

現代に生きる三十郎氏は、「なんと阿呆なことを……」とその極端さを笑う。キリストだってこれを見れば苦笑いするかもしれない。しかし、本作に登場する「キリストが身につけていた衣服は彼の財産か」「キリストだって財布を持ってた」といった議論も、その滑稽さを笑うべき描写なのかと思いきや、当時の人々は本気でやっていたらしい(今でもいるのか?)。贅沢な暮らしをしたい信徒とそれに反対する信徒の対立構図なのだが、その正当性の根拠を聖書にばかり求めるのでお互いに阿呆みたいになっている。

薔薇の名前(字幕版)

薔薇の名前(字幕版)

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薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈上〉

 
薔薇の名前〈下〉

薔薇の名前〈下〉