オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ビューティフル・ダイ』

A Horrible Way to Die, 87min

監督:アダム・ウィンガード 出演:エイミー・サイメッツ、AJ・ボーウェン

★★★

概要

アル中女の元恋人はシリアルキラーで脱獄犯。

短評

間違いなく地味で盛り上がりには欠けるが、そこそこのドラマ性があってそこそこに面白いスリラー映画だった(ホラーとどちらなのか微妙なところ)。逆さ吊り女の写っているパッケージから監禁映画を期待していたのだが、内容は全く異なっていた(原題とは意味が真逆な邦題ほどは詐欺的でないが。もっともこれはこれで意図は理解できる邦題である)。そこに至るまでの不安や恐怖が主題である。主人公は怯えているだけで、終盤までは何も起こらないのに、確かにこの状況は怖い。二つのストーリーラインと回想編を含む複数の時間軸がある割には分かりやすいストーリーだと思っていたら、見事に騙された。

あらすじ

禁酒歴三ヶ月のアルコール依存症患者サラ(エイミー・サイメッツ)。彼女が酒浸りになってしまったのは、とある過去の出来事が原因だった。彼女の元恋人ギャリックがシリアルキラーだと知ってしまったのである。依存症の会で知り合ったケヴィンと付き合いはじめ、人生を立て直そうとするサラだったが、刑務所からの移送中に脱獄したギャリックの影が彼女に迫っていた。

感想

サラ編とギャリック編の二つの物語が交互に進行しつつ、途中で彼ら二人が恋人であったことが明かされる。移送前に入念な身体検査を受けていることや(髪やペニスの裏に武器がないか確認)、道中で複数の人間を殺害していることから、ギャリックが相当な凶悪犯であることが分かる。この時点で観客は「ギャリックはサラを狙っている」と察するわけだが、いよいよサラの周囲で事件が起こりはじめると、不安がピークに達するのである。

ギャリックは刑務所にファンレターが届くほどのカリスマ的シリアルキラーであるとされている。バスルームの裸死体の横でノコを持ったギャリックを捉えたかと思えば、その直後に“ゴミ捨て”に切り替わるという圧倒的手慣れ感。食事用ナイフという雑な凶器でも殺せてしまう高い殺人スキル。これらの凶行を見せておいて、その殺しの影が徐々にサラに迫ってくるとなれば、彼女が単にアル中女だから不安定なわけではないと理解できる。その上、彼女の通報によってギャリックは投獄されたわけで、「恨みを買っている」という思いが不安を倍増させるのである。こんなの怖いに決まっているではないか。

そして、遂に事件が起こる……のだが、ここからが意外な展開。実はファンレターの差し出し人が……というもので、ギャリックの目的はサラに復讐することではなかったのである。思い返してみれば、ノコを持ったギャリックは泣いていたようであり、その女性を殺した時には苦悶しており、彼が望まずして殺人を犯していることが窺える。また、バーでの殺人も通報の危険を察知したからであり、やたらめったら快楽殺人に興じているわけではない。彼は問答無用にサイコパスシリアルキラーではあるが、そこには別の目的がある。ちゃんと伏線が張られていたのだ。

ギャリックについての描写以外にもヒントとなるものがあった。サラの同僚カーラの無断欠勤からの死体発見(ここはかなりグロい)という流れは、シリアルキラーの接近という恐怖を盛り上げるための演出かと思ったが、復讐が目的ならば同僚なんて無視してサラに接触するはずである。また、ケヴィンが中折れして「ごめん……」と気不味くなるシーンがあるのも、彼の普通とは異なる性嗜好を示唆していたわけか。ギャリックの風貌は女性ファンにキャーキャー言われそうな感じではないので、彼を偉大なヒーローと崇めるケヴィンはつまり……、ということなのかもしれない。

背筋の凍るような恐怖ではないが、サラの酒に走らざるを得ない不安な心境はよく分かる。また、それだけ彼女を怯えさせてきたギャリックが、実は彼女のことを想っていたという結末にも物悲しさがある。地味で物足りない系のホラー映画のようだが、(特にサラの)心情がよく描けており、終わってみれば意外にも出来の良いドラマだった。

全編が手ブレの酷いの映像なのだが、その揺れを利用してフレームアウトし、別の場面へと繋げる編集が面白かった。カメラが空を向いて……というのはよく見かけるが、こういう繋げ方もあるのか。これらは“あえて”の演出なのかとも思ったが、ズームインとズームアウトのぎこちなさはやはり安っぽく感じられた。

アダム・ウィンガードは、本作以外にもスリラーやホラーを専門としている監督である。(どうなるのかは分からないが)来年公開予定の『ゴジラVSコング』ではどんな仕事を見せてくれるのだろう。怪獣が人間を襲うタイプの映画ならホラー出身の専門性を活かせそうだが、対決メインとなると想像がつかない。

ビューティフル・ダイ [DVD]

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  • 発売日: 2014/04/16
  • メディア: DVD